「大人になれない大人」の構造
■1,規範や体験が身につかない------------------------------
生物は自分のやった行動の結果を得て自己修正していきます。人もまた、自分の言動に対する他人からのフィードバックを受けて学び、成長していきます。つまり、健全に成長するためには自分のやったことに対する正しいフィードバックが必要だということです。
ここで、子どものやったことに親が介入したとしましょう。たとえば子どもがやったいたずらに怒った他人に対して、親がしゃしゃり出て言い訳したとします。すると、次のような影響をことどもに与えることになります。
まず、親が子どものA(アダルト:例えば説明責任)の部分の自我を代行してしまいますので、その部分が成長できません。
次に、子どもに直接返ってくるべきフィードバックを親が途中でインターセプト(横取り)してしまうので、子どもは自分がやった行為の結果を得ることができません。つまり、軌道修正できないということです。これはP(ペアレント:たとえば社会規範)が形成されないということです。
こうして自我(PとA)の発達も抑制され、自己修正もできず、宙ぶらりんで心許なく無責任な状態に強制的に置かれたまま、軌道を変えられずに突っ走らされることになります。
下図を見ると、親が子どもを胎児のままに抱え込んでいるように見えますね。この胎児のまま大人になっていく人々が「大人になれない大人」の基本構造だと思います。

■2,子が「透明人間」化する---------------------------------------
このように、子どものやったことに常に親が介入してきた場合、「子どものやったこと」に対するフィードバックは上図で見るように「親の反応」ということになります。その親の反応を見て子どもは自己を形成していくことになりますから、その価値観に沿おうとも反発しようとも、子どもの中心軸に親の価値観が居座ることになります。図でいえば、形成されない子どもの自我の部分(PとA)に親の自我がはまり込んでくるのです(自我侵食)。
子どもの側から見れば自我侵食ですが、親の側から見れば、子は言わば自分の体の一部のようなもの。そこに子どもの自我は存在せず、自分の自我だけですから二身一体―自我癒着の母子カプセルができあがります。
・子育て心理学:第5部 4)子供の自我を侵食する「母子カプセル」の構造
すると、母親は無意識に子どもの自我を無視して生きることになりますから、子どもは「居るのに居ない存在」になってしまいます。子どもが存在不安を持ったり、自分のことを「透明人間」と感じたりする場合は、その子が母子カプセルの中に放置されていることを示しています。(心理的ネグレクト)
■3,親が内在化する---------------------------------------
ところで、親の親もまた脳内親に支配されて生きていますから、脳内親の価値観が子どもに世代間連鎖していくことになります。当ブログでは、自分の中に棲みついた親をインナーペアレンツと複数形で呼んでいますが、それは、子どもに影響を与えるのは、直接間接的に、親だけではなく祖父母なども含まれてくるからです。
また、それでわかるように、親のAの部分は「親の脳内親」に支配されていますから、冷静で健全な理性のAではありません。交流分析でいうところの「Pに汚染されたA」です。つまり、祖父母を第一世代とすれば、第二世代の親は脳内親(P)と「Pに汚染されたA」で生きていますから、第三世代の子どもにはより歪んだ価値観が植え付けられていくことになります。
それでも以前は、家庭が地域に開かれていましたから外から軌道修正するチャンスもありましたし、何より身近な自然が人を真っ直ぐにしてくれるきっかけとなりました。が、家庭が自然からも地域からも閉ざされている現代ではそのチャンスもなく、親が絶対的な影響力を持つようになっていきます。こうして「家族の常識は世間の非常識」のようになっていくわけです。
このように親が内在化してしまうと、自分が何かしようとする度に脳内親があれこれ事前チェックをするようになります。こうして、思考グルグルで行動できない人間になっていくわけです。
■4,母親が「世界」となる---------------------------------------
IPの中でも、子どもに最も大きな影響を与えているのは母親です。それはカウンセリング体験から感じたことでもありますが、人間にとって母親が創造主だからです。その母親が上記のように支配的である場合、母親の価値観の中で子どもは生きるようになる―つまり、母親が「自分が棲む世界」になるわけです。
その母親自身が脚本人生(虚構)を生きており、かつ世間から子どもへのフィードバックをすべて母親自身が代行して処理した場合、子どもは世間という現実に触れることができず、母親の虚構世界の中に取り残されることになります。ここから、「世界は作り物」「現実感のないニセモノの世界」「フワフワして地に足が付いていない感覚」という“実感”も生まれてくるわけです。これらの言葉は、その子が異常なのではなく、その子が置かれている「親という環境」が、子どもを閉じ込める胎内世界(母子カプセル)であることを物語っているのです。
母親が「世界」となってしまうのは、母親が意図的に子どもを支配しようとするときだけではありません。ご参考までに下記をご覧ください。
・「餓鬼人間」(4)-真綿の支配
・2-4)娘を自律させないための道具=金とブランド志向
どんな子どももお母さんが大好きでお母さんと繋がりたいと思っています。創造主に見てもらえない人生など空しいと思っているからです。コシノ三姉妹の事例などわかりやすいと思いますが、三女はソフトテニスで全国大会で優勝するほどのプレーヤーとなりましたが、お母さんはファッション以外に眼中にありませんでした。自分を見てもらえない空しさから、ついに三女もファッションの世界に参入しましたね。
・「土浦連続殺傷事件」―8,「家庭内囚人」となった子ども達
つまり、子どもを見守り、子どもの気持ちをしっかり受け止める母親でなければ、すべての母親が子どもの「世界」となる可能性があります。
■5,母親が「神」となる---------------------------------------
エンプティチェアをしてわかるのは、とてもリアルな母親がその人の中から表れてくるということ―その内在している母親を「脳内母親」と呼んでいます。
胎内世界に棲む人は、脳内母親がその世界の神となるわけですから、常に神にお伺いを立てて生きるようになります。よく「内在神とつながる」ということを言いますが、脚本人生を生きている人にとっての内在神は「脳内母親」なのです。
たとえば、次のような人がいたとします。
1.自分のしたいこと、したくないことに、いちいち理屈をつける
2.自分が決断せずに、人に言わせる(判断を求める)
3.自分は判断せずに、人に付いていく(言うなりにする)
4.自分は行動せずに、人に指示する
5.自分のしたいことをしない(好きな物事に近づかない)
1は、自分の行為に理屈(言い訳)をつけることによって、「この行為は私の意志(気持ち)でやっているのではないよ、こうせざるを得ないからやっているんだよ」と脳内母親に言い訳しているわけです。自分が意志(気持ち)を持った人間であることを示すことは神への裏切りになると思っているので、「神の子」(脳内母親の操り人形)であることを証明するために、理屈(アリバイ)を必要とするわけですね。
2も同じです。「これは私の意志ではなく、あの人が言ったからやっているんだよ」と言い訳するために、人に訊くわけです。何でもかんでも人に訊く人や、あらゆることを人のせいにする人は、脳内母親がとても怖い人なのです。
さらに恐怖が進むと、3のようになります。完全に操り人形である姿を脳内母親に見せる日々となるわけです。たとえば、まるでロボットのように無慈悲に言われたことをやってしまったりする場合、それはその人が冷酷なのではなく、その人自身が恐怖の中に棲んでいるとお考えください。その人の脳に、罰する神(脳内母親)がいるわけです。
4は、「なにもせずにそこにいろ」という人生脚本を歩いている人です。母親が我が子を代理母親にする場合がありますが、子どもにとって母親はいつもそこにいてほしい人です。その対象となった子どもは、自分のすべての才能をつぶして何もできない人間になっていきます。しかしそれだと生きていけませんので、何でも出来る配偶者を選んだり、人への依頼や指示が上手になったりします。
なお、「なにもせずにそこにいろ」の究極の姿は心身に障害を負って一定の場所に居ることです。なので、鬱で引きこもっても、病で寝たきりになっても構いません。さらには、精神病院や刑務所に居ても構いません。
5は、2つのケースがあります。1つは「我慢」の人生脚本で、我慢する姿を脳内母親に見せているケース。もう一つは、自分の好きな人や動物や物事を、殺されたり壊されたり奪われたりした経験があり、自分の大事なものを神の嫉妬から守るために、一切それらの物事を遠ざけて生きるケースです。
いずれも、とても窮屈でギクシャクして、無駄なエネルギーを使って、他人まで巻き込んで、しかも自分の人生を一歩も歩いてはいません。なぜそれほどの生き方になるかと言えば、母親の世界に生きる限り、そこを統べる神(脳内母親)には逆らえないからです。
けれど、脳内母親は幼少期の親との関係で形成されはしますが、自分が創り上げた神です。つまり、自分が創った神に自分が支配されるという自作自演の虚構人生を歩いているということです。
■6,心身の症状の発症---------------------------------------
一方、脚本人生を歩いている間中ずっとインナーチャイルドは閉じ込められているわけです。吐き出せない感情が心に溜め込まれていき、やがて下記に見られるように心身の症状として自分を苦しめ始めます。
・「心のコップ」のメカニズム
下痢や嘔吐、蕁麻疹やチック症状、咳や喘息、凝りや冷え、固太りや水太りなどの身体症状。眠れない、集中力の欠如、注意散漫、気力がわかなくなること、イライラしたり、癇癪やヒステリーを起こすなどキレやすくなったりなどの心の症状。
もうこれ以上、「心のコップ」に感情を入れないために、人嫌いになったり引きこもったり、苦しさから逃れるために活字、コミック、アニメ、ゲーム、テレビ、パチンコなどの中毒になったり、お酒や薬に逃げ込んだり。
さらに感覚さえも遮断しようとして、五感のいずれかを喪失したり(遠近が分からない、臭いも感じない、味も分からない、耳が遠くなった、痛みを感じない、熱さ冷たさを感じない)。
さらに、それでも爆発的に出てくる怒りの感情などを認めたくない場合、その時の自分を完全に記憶から消すこともします。感情を吐き出した自分は脳内母親(神)への裏切りになるため、その時の自分を“消す”のです。こういうことが、分裂人格を形成していく一因になります。
脳内母親が看守となり、肉体が感情を閉じ込める監獄となった「自分」の中は、これほどの地獄と化していくわけです。
■7,不安とのデッドヒート---------------------------------------------
かくして、脳内母親に支配された自分は、心身は封印されたインナーチャイルドの衝動に振り回され、脳は終わりなきグルグル思考で埋め尽くされ、ただ脳内母親に見せるための脚本人生を延々と歩くことになります。
それぞれの症状が酷くない方は、薬で心身の症状をごまかしながら、理屈はそれが自分のものと勘違いしながら生きているわけです。いわば「大人になれない大人」だらけであることがわかるでしょうか。
やがて、晩年になればなるほど、自分に感じてほしい気持ち達がほんのわずかな隙を突いては出てこようとします。その筆頭が不安感情ですから、些細なことで不安を感じることが増え、やがて不安に追いつかれないようデッドヒートとなっていきます。
・ゴミ屋敷になる過程と心理~存在不安者の子宮
母親の胎内世界(ハラスメント界)で生きるということが、どういうことかおわかりでしょうか。そこはいわば、重苦しい重圧の世界。ですから、外骨格も必要になるわけです。
外骨格で我が身を守る甲殻類は脱皮することにより成長しますが、人が親という外骨格を脱いで胎内世界から外に出るためには、自分の中に内骨格(背骨)を作り上げなければなりません。
そのために、まず自分が自分のマスター(主人)であることを自覚してください。人のせいや何かのせいにしている間は、脳内母親への言い訳をしていると認識してください。
次に、「自分の行動は自分の気持ちで決める」と決意してください。思考がすぐに逆襲してきますので、思考に惑わされないように。何かしようとして思考がグルグルし始めたら、IPが邪魔をしようとしている証拠。それが激しければ激しいほど、その行為は自律に繋がる行為ですから、脳が邪魔をしたら、それは「やれ!」ということです。
そして、パンパンになった「心のコップ」を空にするために、ほんの少しでも気づいた気持ちがあったら、「声に出す」こと。感情用語をシンプルに声に出すことで、「実感」が生まれます。ICの気持ちを実感することが背骨を形成していきます。そして、自分と自分(IC)の間に信頼が生まれ、それが「自信」となっていくのです。
背骨を持った自分は、もはや透明人間ではありません。
不安感情を感じた自分に、もはや怖いものはありません。
気持ちのままに生きられる、どこまでも自由な青空のような人生が待っています。
・子どものまま成長が止まっている人
・「カープマンの三角形のドラマ」と「母子カプセル」
・親の振り見て子は育つ