加藤智大容疑者の心の闇(10)-ストローク飢餓の殺人ゲーム
■ストローク飢餓の殺人ゲーム
日頃ディスカウントを受け続けている人間は心は傷つきまくって、もうこれ以上傷ついたら立ち直れない、自分がダメになってしまう…そういうギリギリのところで生きるようになる。
すると、もう髪の毛一筋ほどのニュアンスであっても、そこに自分がないがしろにされた、自分が卑下された、というニュアンスを感じたとき、もうこらえきれず大爆発を起こす。そこには、これ以上傷ついたら自分が自分でいられなくなってしまうという危機感がある。
参考までに次の記事を読んでみてほしい。
「さらば!キレる大人(1)-定年退職後、突然キレだした理由」
加藤智大容疑者は人を人とも思わない扱いの派遣会社にキレた(それは勘違いだったかもしれないが)。それが、自分をディスカウントしてきた親への殺意に火をつけたかもしれない。『一歩踏み出したら、あとはいくだけ』-もちろん、それは無自覚なので親へは向かわない。
ただ生きるのに疲れ果てて死ぬ前に、『一花くらい咲かせてみたいものだね』という思いがある。それは、加藤智大という人間がこの世に存在したという証だ。自分が存在していることを誰かに、否、世の中に認めてもらいたいのである。
『幸せになりたかったな 整形しよっかな』と書きつつも、もはや限界を超えている精神は、『まだ始まってないけど、終わりでいいや』と『操り人形な毎日』の終幕を選ぶ。
そして、『彼女がいない それが全ての元凶』 と結ぶ。
最後まで、加藤智大容疑者は、母親の愛を求めていた。
6日深夜。
『どうせ俺が悪いんだろうけど
やりたいこと…殺人
夢…ワイドショー独占
工場で大暴れした 被害が人とか商品じゃなくてよかったね それでも、人が足りないから来いと電話がくる 俺が必要だから、じゃなくて、人が足りないから
誰が行くかよ 誰でもできる簡単な仕事だよ
考え方が変わったって顔は変わらないし
また別の派遣でどっかの工場に行ったって、半年もすればまたこうなるのは明らか
孤独に楽しく生きれるなんてあり得ない
彼女がいない それが全ての元凶』
「どうすれば、止められたのか?」と人は問う。
ここまで読まれた方は、もう答えがお分かりのはずだ。
逆に問うてみるとよい。
「なぜ、問題は起こり続けるのか?」
それは、「対策が間違っているから」
なぜ、間違うのか?
それは、「原因の本質がとらえられていなかったから」
この事件は、酒鬼薔薇事件の構造と殆ど同じと考えてよいだろう。
少年Aも加藤智大容疑者も、親との関係の中で絶対零度の孤独の中、究極のストローク飢餓に陥り、その飢えを満たしたい衝動が、殺人ゲームに走らせた(もちろん、他の切り口もいろいろとあるだろう)。
酒鬼薔薇事件の解析は「あなたの子どもを加害者にしないために」の中で詳細に行った。この本を読めば、子どもの育て方のどこが間違っていたのかが分かるはずである。無意識に育てていることの怖さが分かるはずである。親だけでは子どもを育てられないことも、地域社会の大切さも分かるはずである。
実際に読まれて変わったご家族、救われたご家族はたくさんある。
そこにどうすればよいのかが書いてあるのだ。
是非、読んでいただきたい。
せめて、テレビのコメンテーター等の関係者には、その発言の影響力が大きいだけに、本書を読んで人が育つメカニズムを学んでほしい。
本が出て3年―今回、殆ど同じような事件が繰り返されてしまったことが無念でならない。
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私は、犯罪を犯した加藤智大容疑者を擁護しているわけではない。犯した罪は償わなければならない。
しかし、償っても償っても、犠牲となった方々、そのご遺族の方の無念を晴らすことはできないのだ。
だからこそ、加害者も被害者も、もう出してはいけないのである。
そのために、問題の本質をきちんと把握する必要がある。
そして、今の経済(GDP)優先の社会を幸せ(GNH)優先の社会に変えていかなければならない。
犠牲となられた方のご冥福を 心からお祈り申し上げます。
【ご参考】
・交流分析のゲームとは
・子育て心理学:第4部 5)「ストローク飢餓」に陥った人は「ゲーム」を仕掛ける
・効率至上主義が生んだ背骨なき「怒りの国」