体制を変革する際の最も重要な役割
2008/11/07(Fri) Category : 世相・社会
体制を変革する際の最も重要な役割は、実はアンシャンレジーム(旧体制)を封印することである。
「プロジェクト制を推進するにあたっていろいろと抵抗が予想されます。とくに団塊の世代以上の部長の方々ですね」 【←注:10年前の話です】
島津はゆっくりと切り出し、最後に野々村を見た。
「そうだね」
野々村の落ち着いた声に、島津は野々村の覚悟を感じた。島津は単刀直入にいくことにした。
「その時に頑として壁になっていただきたいのです」
「壁に?」
相変わらず落ち着いた野々村の様子に、島津は自分の言いたいことを最後まで聞いてくれるつもりであることが分かった。
「はい。組織を変えていくにあたってもっとも重要な役割が、アンシャンレジーム(旧体制)の壁になることなんです」
「というのは?」
「たとえば、上杉鷹山が上杉家を立て直そうとした時の最大の危機は老中たちのクーデターでした。その危機を救ったのが旧体制のボスであった大殿です。大殿は『自分はなにもしなかったが、鷹山を連れてきたことが最大の成果だ』と言ってます。
が、私は最大の貢献をしていると思っています。
大殿はなにもしなかったからこそ旧体制から支持され、そして支持されたからこそ、大殿の一喝と厳しい処罰でクーデターは治まったのです。
最大の危機の時に最高に威光を活かすことができました。
まさに生涯に一度しか抜かない伝家の宝刀を抜いた一瞬だったと思います。
大殿がいなければ鷹山の改革はならなかったでしょう」
「なるほど」
野々村は感慨深げに相槌を打った。島津は続けた。
「明治維新が成ったのも、徳川慶喜がいたからこそだと思います」
「ほう。普通は、維新の志士たちが脚光を浴びるがね」
「そうですね。私も竜馬が好きですが、自らとともに江戸と呼ばれた時代を封印したのは、最後の将軍慶喜です。大政を奉還した後、自分は趣味人として生き政治にはいっさい口を出さないことで、旧体制にも口を出すなという無言の壁になったわけです。あれだけの才能が趣味だけに生きるのはとても辛いことだったと思います。見事な引き際であり、見事な耐え様であると思いましたね」
「なるほど」
野々村は感心したような声を出した。
「それに日産自動車もそうですよ」
「日産自動車?」
これはまた、えらく時代が飛んだものだ、と丸くなった眼が言っている。
「ゴーンさんにスポットがあたっていますが、彼があそこまで腕を振るえたのは、塙会長が旧体制の壁になったからです」
「確かに、ゴーンさんもそう言ってるようだね」
「はい。壁は辛いと思います。しかし、組織を変えていくには旧体制の壁となる人が必要になります。そして、それができるのは一人しかいません。旧体制の最高権威です。最高権威が従うのであれば旧体制も従わざるをえませんから」
【「あきらめの壁をぶち破った人々―日本発チェンジマネジメントの実際」より】
「プロジェクト制を推進するにあたっていろいろと抵抗が予想されます。とくに団塊の世代以上の部長の方々ですね」 【←注:10年前の話です】
島津はゆっくりと切り出し、最後に野々村を見た。
「そうだね」
野々村の落ち着いた声に、島津は野々村の覚悟を感じた。島津は単刀直入にいくことにした。
「その時に頑として壁になっていただきたいのです」
「壁に?」
相変わらず落ち着いた野々村の様子に、島津は自分の言いたいことを最後まで聞いてくれるつもりであることが分かった。
「はい。組織を変えていくにあたってもっとも重要な役割が、アンシャンレジーム(旧体制)の壁になることなんです」
「というのは?」
「たとえば、上杉鷹山が上杉家を立て直そうとした時の最大の危機は老中たちのクーデターでした。その危機を救ったのが旧体制のボスであった大殿です。大殿は『自分はなにもしなかったが、鷹山を連れてきたことが最大の成果だ』と言ってます。
が、私は最大の貢献をしていると思っています。
大殿はなにもしなかったからこそ旧体制から支持され、そして支持されたからこそ、大殿の一喝と厳しい処罰でクーデターは治まったのです。
最大の危機の時に最高に威光を活かすことができました。
まさに生涯に一度しか抜かない伝家の宝刀を抜いた一瞬だったと思います。
大殿がいなければ鷹山の改革はならなかったでしょう」
「なるほど」
野々村は感慨深げに相槌を打った。島津は続けた。
「明治維新が成ったのも、徳川慶喜がいたからこそだと思います」
「ほう。普通は、維新の志士たちが脚光を浴びるがね」
「そうですね。私も竜馬が好きですが、自らとともに江戸と呼ばれた時代を封印したのは、最後の将軍慶喜です。大政を奉還した後、自分は趣味人として生き政治にはいっさい口を出さないことで、旧体制にも口を出すなという無言の壁になったわけです。あれだけの才能が趣味だけに生きるのはとても辛いことだったと思います。見事な引き際であり、見事な耐え様であると思いましたね」
「なるほど」
野々村は感心したような声を出した。
「それに日産自動車もそうですよ」
「日産自動車?」
これはまた、えらく時代が飛んだものだ、と丸くなった眼が言っている。
「ゴーンさんにスポットがあたっていますが、彼があそこまで腕を振るえたのは、塙会長が旧体制の壁になったからです」
「確かに、ゴーンさんもそう言ってるようだね」
「はい。壁は辛いと思います。しかし、組織を変えていくには旧体制の壁となる人が必要になります。そして、それができるのは一人しかいません。旧体制の最高権威です。最高権威が従うのであれば旧体制も従わざるをえませんから」
【「あきらめの壁をぶち破った人々―日本発チェンジマネジメントの実際」より】