万引きの心理-なぜ、分別ある大人や高齢者が万引きするのか
なぜ、分別ある大人が?
なぜ、長い人生を経てきた老人が?
まず…分別ある大人や老人が万引きすることからわかるように、人格と万引きという行為には関係がありません。
万引きとは、追い詰められた状態にある人が引き起こす行為であり、誰でも起こし得る可能性があるものです。
追い詰めているのはその人を取り巻く環境です。
ですから、その人を責めるだけで環境が変わらないのであれば、再び万引きは繰り返される可能性があります。まず、子どもの例で見てみましょう。
●ストローク飢餓を満たすための万引き---------------------
子にとって最も大きな影響のある環境は「親」です。
ですから、親と子の関係性を変えていくことが問題の根本解決になるのです。そして、関係性を変えるに当たって次のことを常に頭に置いておくことが鍵になります。それは、
「子供は親に認めてもらいたいと心から願っている存在である」ということ。
認めてもらうために無理をしたり、悪いことをして目を惹いたり…
万引きというのも、愛情不足の表れの一つです。親にかまわれない子どもが、悪さをして気をひくのと基本的には同じなのです。
人は自分の存在を認めてもらえなければ生きていけません。
ですから、互いにストローク(相手を認める働きかけ)を出し合っています。挨拶するのも、目を合わせるのも、微笑みかけるのも、おんぶにだっこや手当も、すべてストロークです。
一方、怒ったり憎んだりするのもストロークです。マイナスのストロークですが、相手の存在を認めていることに変わりはありません。
最も辛いのはストローク・ゼロの状態。つまり「無視」です。
「無視」というのもいろいろありますよね。意図的にする無視は、むしろ相手を意識していますので、無視し合っている状態というのは強烈なストロークを交換しているといってもいいでしょう。
寂しく苦しいのは、自分のことが相手の「眼中にない」という状態です。例えば両親が自分の仕事や趣味にかまけて子どものことは眼中にない。例えば両親が互いのことや親族の愚痴や心配を子どもにまで聞かせている。例えば両親が子どもに何かをさせたり禁止したりすることのみ一生懸命で気持ちの通い合う会話はない。
-ここに見られる両親は意図的に子どもを無視しているわけではありません。けれど両親の関心は、自分のこと、子ども以外の他人のこと、あるいは子どもになすべきこと-に集中していて、子ども自身の"気持ち"を聴こうとはしていません。子どもの心は放置(心理的にネグレクト)されたままなのです。
このように心の食べ物(ストローク)を与えられないままに放置されると、「ストローク飢餓」(自分の存在を認めて欲しいという強烈な飢え)に襲われます。
ストローク飢餓に陥ると、たとえまずい食べ物(マイナスのストローク)であっても、それを得ようとします。ひもじいよりはマシだからです。飢えた人間が生存のために、ルールや倫理もお構いなく、どんなことをしてでも食べ物を得ようとするように、どんなことをしてでもストロークを得ようとします。
悪さをして怒られるようなことをするのは、怒られるというマイナスのストロークをもらうことができるからです。
万引きをするのは、捕まったときに他人から強烈な否定のストロークを受けることになりますが、それを想像しつつ万引きをする時点で、既に濃い否定のストロークを受けとることになるからです。この時のスリルとはつまり、否定的であるにせよ自分の存在が認知されているという快感なのかもしれません。
------------------------------------------------------------
ストロークを得る方法は、ストローク飢餓の度合い(飢えの深さ)によって変わります。
家の中で悪さをして怒られる-マイナスのストロークを得ることができますが、自分の気持ちをきちんと聴いてはくれない。結局、飢餓状態は続きます。
次に、家の中のお金を盗んだりします。お金がなくなるというハッキリした事実を突きつけることで、親に自分の寂しさ(存在不安)に気づいてほしいのです。それでもうやむやにされたり、正面から向き合ってくれなかったり…。
すると、このサインではまだ気づいてくれないのだなと、サインはだんだん大きなものになっていきます。家の中のもので気づかないのであれば、外のもの-それが万引きです。
幼稚園児の万引きなどを見るとそのことがよくわかります。盗んだお菓子を入れたポッケをぽんぽんと手でたたいていたりします。無意識ですがお母さんに気づいてほしいのですね。どれほど寂しい思いがポッケに入っているのでしょうか。
が、それでも親が何も言わなければ、あるいは、きちんと叱ってくれたり自分の気持ちをちゃんと聴いてくれたり、というように自分と向き合ってくれなければ、子どもは親に絶望していきます。私が何をやってもいいんだ、私のやっていることに興味が無いんだ、私がどうなってもいいんだ、私という存在自体に関心が無いんだ-というようにあきらめていくわけです。
親にあきらめてもストローク飢餓が消えるわけではありません。そうなると、万引きは親へのサインではなく、ストロークを得るためのゲームになっていくのでしょう。
------------------------------------------------------------
子どもの万引きを知ったとき、親は「育て方間違った」と嘆いたりします。が、上記を見てわかるとおり、問題は子どもたちの気持ちを受け止めることをしなかった=ストローク・ゼロの家庭だった―そういうことです。
あの手この手で育てること(Doing)はしたのでしょう。しかし、子どもの気持ちを聴き、受け止める存在(Being)ではなかったということです。
寝たきりで口もきけず、しかしそのまなざしで子どもの存在を認めており、子どもたちは不安を持つことなく育った例を知っています。親は何をしなくてもいいのです。まなざしで子の存在を受け止めること―それも子にとっては、大きな大きな受け止められ体験なのです。
子どもたちに非はありません。
反省すべきは、自分の「心のコップ」が一杯で子どもたちの気持ちを受け止める余裕がなかったということです。
●ストレス発散としての万引き------------------------
もう一つの万引きの誘因はストレスです。
万引きは社会的ルールを破る行為です。
自分が、親や組織から何らかのルールややるべきことの押しつけを受けてがんじがらめになっていた場合、それをぶち破って自分を解放したい衝動が湧いてきます。
しかし、親や組織に向かえないとき、それが不特定多数の一般に向いてしまうのです。
社会的ルールを破る万引きという行為は、親や組織から押し付けられているルールややるべきことをぶち破る気持ちの代償行為なのかもしれません。こうして万引きが成功したとき、してやったりというカタルシスを得るのでしょう。
しかし、これもまたその人を取り巻く環境が変わらなければ、いずれストレスが蓄積し、それを吐き出すために万引きを繰り返すようになります。
さて、「プロジェクトX」を制作した今井彰氏(52)が万引をした、という衝撃のニュースが飛び込んできました。NHK幹部は、「なぜ?」を知りたいと会見で苦渋の表情を見せ、厳しく処分すると言います。
名もなき地上の星達を取り上げた「プロジェクトX」。
もしかしたら、彼は親に自分の本当の気持ちを聴いてもらったことがなかったのではないだろうか。だから、彼はその自分を自己投影して「プロジェクトX」を制作したのか…などと思ったり…。
また、組織内である一定の立場を得てしまうと、ある意味無視されます。一方で、期待にこたえることが当然とばかりに、過大な要求ばかりなされることもあります。『06年からは現職となり新番組開発の指揮を執っていたが、同局関係者によると「『新しい番組を作れ』とガンガン言われてストレスをためていたようだ」』【2008年12月2日スポーツ報知】と言います。そのストレスの発散行為だったのかもしれません。
万引きを引き起こすのは「衝動」ですから、本人にも上手く説明がつかないでしょう。
いずれにせよ言えることは、彼が「孤独」であったということです。
そして、NHKに言いたいこと。
これまでにも、万引で捕まった方がいました。そして、今度はNHKの看板とも言うべき人間がやってしまいました。つまり…サインが次々に現れています。
「厳しく処分」などと言っていますが、処分すべきは人を追い詰めている「NHKの体質」ではないでしょうか。
環境が変わらなければ、サインはこれからも現れ続けるでしょう。
これ以上、犠牲者を増やして欲しくないと思います。それは、NHKという組織に対する信頼につながる問題です。個人の責に帰して終わりにできる問題ではありません。
最後に、高校の2年先輩である今井彰氏にお伝えしたいこと。
決して自暴自棄にならないように。
(参考)
・親がおかしい(4)-万引き
・「ストローク飢餓」に陥った人は「ゲーム」を仕掛ける
・「受け止められ体験」が人を救う
・どー(Do)していいのか分からない親へ
・「心のコップ」のメカニズム
・生きづらい人(1)-生きづらい子を作る親の特徴
- 関連記事
-
- Getaway!
- 万引きの心理-なぜ、分別ある大人や高齢者が万引きするのか
- 「キレる大人」の心理(1)-定年退職後、突然キレだした理由