うつと抑うつ神経症
■抑うつ神経症とは
ところで、私が「心の気嵐」と呼んでいる「長期化している鬱(うつ)状態」のことを専門的には、抑うつ神経症と言います。うつと抑うつ神経症の違いはなんでしょうか。
★鬱(うつ)とは-----------------------------------------
活動自体のイマージェンシーストップです。
(emergency stop 緊急停止)
「努力せよ」「完全であれ」「急げ」というドライバーの強い人。
「楽しむな」「休むな」「怠けるな」などの禁止令の強い人。
…これらの人は、体が警告を発しても、気分が優れなくても、意志の力で(その実は、IP(インナーペアレンツ)に支配されて)頑張ってしまいます。IPに支配されたロボットのようなもので、心や身体の声に耳を傾ける習慣がなくなってしまっていますので、ストレス不感症にさえなっています。しかし、ロボットではなく生身の体ですからね。そのままでは気づかないうちにボロボロになってしまうわけです。
そこで、体が悲鳴を上げても心が悲鳴を上げても聴く耳を持たないのならば、「意欲」自体をなくしてしまえ! というのが「うつ」です。全てにおいて意欲がなくなってしまえば、動く気力も出てきませんからね。つまり、「うつ」というのは、人体を休ませて救うために残された最後の緊急停止装置のようなもの―というのが、私の見方です。
これまでにも、心と連動した数々の人体の不思議に接してきましたので、人体の素晴らしさには驚くばかりですが、「うつ」も暴走する本人を止めるための巧妙な脳内メカニズムだと思えるのです。「うつ」になるメカニズムがなければポックリ死する人が増えるのではないかとさえ思ったりします。
このようなメカニズムですから、長期間緊張状態におかれている人は誰でも発症する可能性があります。現代はIPに支配されている人がとても多いので、うつが増えるのも当然だと思われます。
「うつ」と「抑うつ神経症」とでは、治療法が変わってきます。
うつは上記のように強制的に「休め!」と言われているようなものですから、その治療は「薬と休養」が主体となりますが、「抑うつ神経症」は“神経症”対策が必要になってきます。
★神経症とは------------------------------------------
一般に神経症とは、向上欲・完全欲が強く努力を惜しまない反面、完全主義に陥りやすく不完全であることに悩むところから発症すると言われています。
努力、真剣、真面目、徹底的、粘り強いというよい素質を持っているのですが、その方向がかたよって調和がとれていない状態であるとき、神経症が発症するということですね。何事も、バランス=「いい加減」「いい塩梅」が大切だということです。
(*尚、この説明では、なぜそういう傾向になったのかというところまでは踏み込んでいません。そこまで踏み込まなくとも治療はできますが…。
私の場合は、このような傾向をその人の「性格」だとは見ていません。世代間連鎖の中でIPに支配されたり、存在不安に駆られたりする中で、そのような傾向が出てきたと見ています。ですから、連鎖の問題を自覚することが根本治療になると思っています。以下のことについても同様です)
★抑うつ神経症とは-------------------------------------
愛する人や友人、ペットとの離別・死別、支えとなっていた地位・職場・住居から引き離されること(リストラ、転勤、昇格など)、人生観・価値観の動揺など、自分を支えていた対象を失うことによって発症します。自分の支えが無くなりますので、不安が強く出るのが特徴です。
たとえば仕事にやる気が起きない場合、うつ病の人は会社や家族に迷惑がかかると考えますが、抑うつ神経症の人は、何でやる気が起こらないのだろうかとか、このまま、やる気が起こらなかったらどうしようといった不安を感じます。純粋なうつ病は自分を責めますが、抑うつ神経症の場合は周囲を責めることも特徴です。
発症条件は次のようなものです。
①その支えにしがみつこうとする欲求が強い
②失ったときに、十分に悲しむこと(グリーフワーク)が出来ていない
Aさんの場合、
①職場(安全基地)への執着が極めて強く
②パワハラ被害という形で辞めたためにショックが大きくて、辞めたその時に十分に悲しむことが出来ていません。
つまり、抑うつ神経症が発症する条件は十分整っていたわけです。
(*尚、この説明では発症のきっかけや特徴などはわかりますが、ではなぜ発症するほどに執着していたのかという背景は注目されていません。親子関係や世代間連鎖を見ていく中で自分の人生脚本に気づくことが根本治療になります)
「うつ」「神経症」「抑うつ神経症」「性格」…上記はいずれも、一般的な見方とは少し違うかもしれません。が、私の体験的な見方です(私は西洋医学を否定するものではありません。パニック発作を経験した際に薬が不安感をなくしてくれましたので、薬の効果も大切だと思っています。が、一方で、対症療法が症状の本質的意味を隠蔽することにより、結局悪しき状態を延命させてしまう怖さも感じています)。
佐藤さんの場合、パワハラで退職に追い込まれた最初の半年間は「大うつ」、次の半年間は「うつ」で、その後、心身のダメージが回復して感情が噴出し始め、その負の感情に翻弄された1年半は「抑うつ神経症」に移行したと見ています(病名をつけるとすればね…)。
まぁ、いずれにせよ全ての心身の症状及び自分の周りに起こる現象は心の表れなので、IP(インナーペアレンツ)やIC(インナーチャイルド)、存在不安や人生脚本の問題に取り組まなければ根本解決には至らないと考えています。
では、根本解決とは何か?
生まれたときの、あるがままの自分に戻ることです。
・「心理的ダメージからの回復過程及び第二の誕生」に続く