第6部-6、なぜセックスができなかったのか
■6、なぜセックスができなかったのか-----------------------
諒君は、セックスができないことが引き金となって司法試験の勉強を中断して以降、昼夜逆転の酒浸りの生活が1年ほど続きます。
昼夜逆転になるのは、親が起きている間は心が安心しないからです。
自分に侵入してくる親が寝て初めて、心が解放され動き始めます。
親が寝た後でしか自由になれないのです。
ですから、子が昼夜逆転しているならば、自分が常に子どものことを気にしていないかどうか振り返ってみてください。
そして事件より1年前の夏、付き合っていた女性と旅行に出ます。その旅行から荒れて帰り、その後、中学時代の友人に会いに長崎に行きます。その帰途、諒君は母親に電話をかけてきました。
『“彼女とうまくできないんだ”と、セックスができないことを言ってきたのです』―彼にとってセックスとは何だったのでしょうか。なぜ、できなかったのでしょうか。そして、なぜ母親に電話してきたのでしょうか。
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少し振り返ってみましょう。
諒君は、感情を禁じられ、愛情を禁じられ、音楽という自己表現も認められず、スキーという背骨も封じられ、考えることさえも禁じられ、弱り切ってくたびれ果てた姿で監獄の中に係留されています。精神が弱り切っているために、その監獄の中では霊さえ見ます。その不安と恐怖から逃れるために昼夜逆転の酒浸りの生活なのです。
そもそも、どうサバイバルするかという状況下にあってセックスどころの話しではないのです。
そのような監獄生活にあって、付き合っていた女性は唯一の命綱だったのではないでしょうか。つまり、自分の命に関わる大切な存在なのです。ここに、彼が心因性インポになった大きな理由があったと思います。
1,伸びきったゴムのように疲れ果てていたこと
2,気持ちで行動できないこと
―気持ちで行動することは禁止されているため、情動の世界が苦手なのです。
3,相手の気持ちを敏感に察知してしまう癖
―親と自分の関係が人と自分の関係にスライドします。常に親の意向をくみ続けなければならなかった諒君は、相手のことをいろいろと考えてしまうところがあったと思われます。
4,思考優位
―感情を抑圧している人は、その代償に思考依存しますが、思考は感情をクールダウンさせます。
このような背景があった上に、もしうまくいかずに嫌われたらどうしようという緊張が加われば、いかがでしょうか。その見捨てられ不安は、唯一の命綱を失い監獄の中に取り残されるという恐怖に裏打ちされたものです。もはや、うまくやらなければという強迫観念にまでなってしまうのではないでしょうか。
ここまで緊張しては、うまくいくはずもなかったと思います。
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このことを父親にではなく母親に電話してきたのは、背が伸びないことを「どうして、どうして」と訴えていた思春期の頃の諒少年と同じなのです。「なぜ僕を追い詰めてばかりで、愛情をくれないの?」とお母さんに問うているのです。
あけみさんの答えはこうでした。
『早く帰ってきてお父さんに話しをしてみたら』
―またも、諒君は突き放されました。
そして、りょう先生は次のように言いました。
『おまえの場合は、自意識過剰なんだから、そういうことがセックスには響くんだ』。そして、『私は人間というものは本を読まなければいけないとわかっておりますから、読書をするようにとアドバイスしました』
唖然としました。
りょう先生は諒君の気持ちを受け止めるのではなく、「自意識過剰」と諒君を切り捨て、なんと読書せよと方法論を押し付けているのです。しかも、「読書」です…。りょう先生の空虚さがあまりにも痛々しい。
まるで、大人がセックスを知らない子どもからアドバイスを受けているようなもの(う~ん、子どもの方が柔軟でキャパが大きいので、もっと心に響く返答をすると思いますから子どもに失礼ですが…)。そんなアドバイスなどいりません。諒君にはそのことがわかっていたからこそ、父親に訊かなかったのです。
しかし、子どものりょう先生は、『アドバイスを聞かず傲慢になっていきました』と、諒君に対する憎しみを募らせていきました。