第6部-7、ついに服従を突きつけた父親
■7、ついに自分への服従を突きつけた父親-------------------
唯一の命綱であった恋人。しかし、その彼女との行方にも暗雲がたれこめていました。彼女は、ミュージシャンとして成功してほしいと応援する思いと、将来一緒に生活していくことの間でジレンマに陥っていました。諒青年は、いらだたしげに言いました。
『定職についていない事を否定されれば、これはおれ自身の意思でやっていることだから、おれ自身を否定されることになるんだ』
とても、重い言葉です。諒君にとっては、この道が親に乗っ取られないための“おれ自身の”道なのです。それ以外の道は、ことごとく親に潰され、この唯一の道に追い込まれてしまいました。それ以外は、監獄で生きた屍になる道なのです。
しかし、彼女にとってもそれは重たいものでした。定職もなくセックスの問題もある。…そのため、諒君にとってデートはその都度、自分の存在証明をかけるものになりました。楽しいはずがありません。でなければなぜ、デートの度に荒れたりするでしょう。
-----------------------------------------------------
ところが、その親は諒君が精神科医のところにも行かず、恋人とデートを楽しんでいるようにしか思わず、苦虫を噛み潰しています。
そして、『家内にたいする長男の言葉遣いが悪かった』ことに怒ったりょう先生は、『“そういう言い方はないだろう”と言ったことがありました。これにたいし長男は“うるせえなあ”と言ったのです』。そこで、『「おまえ、一晩よく考えて明日、謝りにこなかったら、子どもとは思わない」と言って2階に上がった』のです。
これは、非常に象徴的な出来事でした。
水面下に隠されていたものが赤裸々になったのです。
りょう先生が怒った内容は、親に対する「言い方」―つまり、“形”です。
形にすがることで、親の体面(アイデンティティ)を保とうとするりょう先生にとって、それは逸脱させてはならない枠でした。
そして、「謝りにこなかったら、子どもとは思わない」と言うことで、子どもへの愛情よりも枠に従うことが優先である事を明白に示したのです。
無条件の愛情を求めた諒君に対して、父親から返ってきた返事は、愛情をタテにした自分への絶対的服従でした。
父親は無条件の愛情は与えない事を明言したのです。
ありのままの諒君は認めない事を明言したのです。
そして、父親のルールに従う事を強制したのです。
この父親の態度に、あなたならば耐えられるでしょうか。…
-----------------------------------------------------
諒君は、スパゲティを皿ごと壁にぶつけた後、父の部屋へ謝りにいきました。この時、自分の気持ちを押し殺し、大きな赤ちゃんである父親のおもりをしたのです。「さっきは悪かったね」と謝る姿を見て「反省したのかな」としか思えないりょう先生に、息子の絶望と怒りのマグマは見えません。
このことが、諒君が荒れ始めるきっかけとなったのは、当たり前でした。