NHK「虐待の傷は癒えるのか」を見て
玉井邦夫大正大学教授が被虐待児の心身を大ざっぱに言うと次のように説明されていた。
感覚、感情、思考が一体となって自己一致する。
たとえば、親から叩かれたりしたときに、感覚「痛い」、感情「悲しい」、思考「なぜ?」が一致したときに納得がいく(…でもね、叩く必要はありません)。
が、叩かれた理由に納得できなければ、悲しいほかに「理不尽」「悔しい」という怒りが湧く。
さらに、理由もわからず体罰を受け続けるとき、感覚、感情、思考を統合できなくなる。そのあり方はいろいろとあるが、その一つのパターンは例えば次のようなもの。
→理由なく痛みを感じ続けるのも嫌なので、痛みに鈍感になる。叩かれる度に悲しみや悔しさを味わっていると身が持たないので、感情も封印する。「なぜ?」を考えるのをやめる。
が、ディスカウントされた怒りは「心のコップ」に蓄積されている。その怒りは常に出るチャンスをうかがっているので、何らかのきっかけでキレる。
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カメラは全国に33カ所ある情緒障害児短期治療施設のうち、長崎の大村椿の森学園に入っていたが、誤って手が触れただけで怒り狂う女の子や、自分担当のスタッフが食堂で他の子と座っているのを見ただけでキレまくる子など、どれだけディスカウントされてきたのかが思いやられて痛ましい…。
これはひどいと思ったのは、小学児童の母親。
子を引き取るために来園し、久しぶりに会ったというナレーションの後すぐの母子の会話を聞いて、これじゃあ“支配者と使用人”じゃないか、と思った。これで、この母親の元へ返すのか?
そして、数ヶ月して来園し母子面談の後、帰るときの母の子への相変わらずの命令口調。あぁ、支配者と使用人じゃない、“犬のしつけ”だと思った。
この女は(←失礼、もはや“母親”ではない)、人を育てることを犬のしつけと同じに考えている。これを見て、この子をそのままこの親と帰らせるのか?
この女性、インタビューに答えて曰く。
外で暴れていると聞くけれど、家ではおとなしく大声も出さないという。当たり前だ。家の中で人扱いされない怒りを外で吐き出しているのだ。
この内外のギャップをスタッフに指摘されながらも、児童相談所が乗り込んできたときに、なぜ来るのかわからなかったし、今も自分のどこが悪いのかわからないと言う。
今は問題を感じていないし、将来怖いとすれば家庭内暴力の問題だけ。だから、親はいつも上だということを思い知らせておく必要があるという。……二の句が継げない。
この女性の心の闇もまた深い。
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このような施設は、子どもの心の治療にだけ焦点を当てている。
仮に何とかトラウマを克服して帰ったとしても、肝腎の家が変わっていないので、元の木阿弥なのである。
腐った土壌から芽吹いた植物。しかし土壌が悪いので曲がって育ち、そこで違う土壌に移し替えて何とかまっすぐに育て直したのに、また元の土壌に返しますか?
考えればシンプルなことだ。
子どもがおかしくなったのは、親がおかしいからだ。子どもを治療しても、親が治療されていなければ、また同じ目に遭うだけなのだ。
「親子関係の修復」などと曖昧な表現を使っているから、実体が見えなくなる。親が治療されなければ修復はありえない。親の治療と子の治療をそれぞれ行い、治療を受けた親子が一緒になって、はじめて修復がなされるのだ。
このような施設には、是非家族相談士を配置してほしい。子を施設で預かり治療する間、家族相談士は親のカウンセリングに当たる。そういう態勢を是非とってほしいと願う。
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「児童虐待に関する相談件数は増加の一途をたどり、児童虐待問題は社会全体で早急に解決すべき重要な課題だ」【2009年版「青少年の現状と施策」(青少年白書)】(7/3内閣府発表)というのなら、予算を割け。
然るべき対策をとるために実態を把握するわけだろう。単なる発表のためだけに調査しているわけではないだろう。対策をとるということは即ち、そのために行動できる人を配置するということだ。人件費コストをかけるということだ。そのために税金が使われることを嫌がる人間はいない。
会社、学校、病院、家庭……もはや、ハコの中身はガタガタである。
児童虐待相談数が4万件突破、自殺者10年間3万人超のディスカウント大国日本。心を亡くし、身を滅ぼし、国の宝である子も失っている。にもかかわらず、亡国の道をひた走っている。
117億円かけて「アニメの殿堂」を建設するくらいなら、アニメーターの超低給与を上げるとか、このような心の問題に対応できる体制及び人を増やすなど、国としていくらでもやるべき事があるだろう自民党!!!