子育て心理学:第5部 4)子供の自我を侵食する「母子カプセル」の構造
2010/01/14(Thu) Category : 心理学
【子育て心理学】
第5部-子どもに「何を」育てるのか?(自我形成編)
■4)子供の自我を侵食する「母子カプセル」の構造
前項では、親の現行不一致が子どもにAC(Adapted Child)を形成することを見ました。では、次の事例を見てみましょう。
【事例:危険行為を繰り返す子】---------------------------
父親が「安全・規律・善悪・正邪・道徳・伝統」などの社会規範たりえない人だとします。そして、子どもに健全なPとAが発達せず非常識な行動を繰り返しているため、母親は、子どもが危険行為をしたときに事態収拾のために子どものカバーに回るのが自分の役目と思っているとします。
あるときその子(D君としましょう)が、マンションの階段の踊り場から石を落としたとします(以前、マンションからモノを落とす遊びをしていた子どもが消化器を落とした時に、偶々下を通りかかった女の子に当たって死亡したという痛ましい事件がありましたね)。
それを見た近所の方が注意しにやってきました。そのとき、D君のお母さんが「理科の実験のつもりだったのだと思います」と言いわけをしたとします(このとき、このお母さんは、自分ではD君のしでかしたことをカバーしているつもりです)。その後、近所の人が帰った後で、D君にくどくどと説教をしました。
さて、この母親の行為を見てD君は何を学ぶでしょうか。
(Thinking Time …)
---------------------------------------------------
はい、いかがだったでしょうか。
まず、親の“言ったこと”ではなく“やったこと”から子は学ぶのでしたね。ですから、親の説教から得るものはありません。D君は、お母さんの背後からお母さんが近所の人に対してやっていることを見ています。その親の背から何を学んだでしょうか。下図を見てください。
■母子カプセル

お母さんは
①代弁(D君の代行)
②言い訳(説明して謝らない)
をしています。
①お母さんがD君の代弁をするということは、D君に対しては『お前は口出しするな』という禁止令が行きます。
②お母さんが説明して謝らなければ、『理由があれば謝るな』という禁止令がD君に行きます。
するとD君は、
①考えることができません(考えることの禁止)
②謝ることができません(謝ることの禁止)
他者との関係で言えば、
①自分のやった行為に対するフィードバックを母親が奪うために、他者から直接得ることができません(=責任を取ることも成長できません)
②他者との関係を紡ぎ直すことができません
つまりD君は、成長することも社会とつながることもできない(禁じられている)のです。
---------------------------------------------------
図を見ておわかりの通り、PとAができないD君の代わりに、母親がPとAで社会と接しています。つまり、母親がD君のPとAの代行をしているわけですね。
母親が、子どもに欠落した機能を育てるのではなく、直接補償(カバー)してしまっています。母親が子どもに成り代わっており、母親が子供の自我のパート(PA)を代行して“母子一体”となっています。
ある機能が他で代行されている場合、その機能は発現しません。D君の側から見ると、D君はいつまでたってもPAが内在化されず=大人になれず、母親なしではコミュニケーションできないという“母子密着”の状態に陥ってしまいます。この母子癒着の構造を「母子カプセル」と言います。
尚、母子カプセルは次のような状況下で起こります。
1,父親が背骨を持っていない
2,父親自らが家庭にコミットしようとしない
3,夫婦の権力関係の中で父親が子どもに関わらせてもらえない(巧みに遠ざけられる)
4,上記の要因の組み合わせ
母子がまっすぐな関係性を持つためにも、大黒柱たる父親の役割は大きいのです(尚、なぜ上記のような状況になっているのかは、父母双方に世代間連鎖の問題があります)。
■注1
父親がいなければダメと言うことではありません。母親であれ父親であれ、背骨を持った大人のモデルが子どもの身近にいることが大切なのです。母子家庭であっても、母親がBeingであれば母子カプセルになることはありません。むしろ、父親がいない分、父親役までやろうとして子を追い詰める例がよく見受けられます。お気をつけて。
・ロザンナさんへ-母親は父親にならなくてよいのです
■注2
父子カプセルも当然あります。
・岡山突き落とし事件-「父子カプセル」が招いた悲劇
■注3
母子カプセルを基にした家族ゲームが悲劇を生むこともあります
・「カープマンの三角形のドラマ」と「母子カプセル」
■注4
・第5部 6)家族が癒着する「家族カプセル」の構造
■注5:事例
・4-1)仕送り月40万円の意味(母子カプセルのへその緒)
第5部-子どもに「何を」育てるのか?(自我形成編)
■4)子供の自我を侵食する「母子カプセル」の構造
前項では、親の現行不一致が子どもにAC(Adapted Child)を形成することを見ました。では、次の事例を見てみましょう。
【事例:危険行為を繰り返す子】---------------------------
父親が「安全・規律・善悪・正邪・道徳・伝統」などの社会規範たりえない人だとします。そして、子どもに健全なPとAが発達せず非常識な行動を繰り返しているため、母親は、子どもが危険行為をしたときに事態収拾のために子どものカバーに回るのが自分の役目と思っているとします。
あるときその子(D君としましょう)が、マンションの階段の踊り場から石を落としたとします(以前、マンションからモノを落とす遊びをしていた子どもが消化器を落とした時に、偶々下を通りかかった女の子に当たって死亡したという痛ましい事件がありましたね)。
それを見た近所の方が注意しにやってきました。そのとき、D君のお母さんが「理科の実験のつもりだったのだと思います」と言いわけをしたとします(このとき、このお母さんは、自分ではD君のしでかしたことをカバーしているつもりです)。その後、近所の人が帰った後で、D君にくどくどと説教をしました。
さて、この母親の行為を見てD君は何を学ぶでしょうか。
(Thinking Time …)
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はい、いかがだったでしょうか。
まず、親の“言ったこと”ではなく“やったこと”から子は学ぶのでしたね。ですから、親の説教から得るものはありません。D君は、お母さんの背後からお母さんが近所の人に対してやっていることを見ています。その親の背から何を学んだでしょうか。下図を見てください。
■母子カプセル

お母さんは
①代弁(D君の代行)
②言い訳(説明して謝らない)
をしています。
①お母さんがD君の代弁をするということは、D君に対しては『お前は口出しするな』という禁止令が行きます。
②お母さんが説明して謝らなければ、『理由があれば謝るな』という禁止令がD君に行きます。
するとD君は、
①考えることができません(考えることの禁止)
②謝ることができません(謝ることの禁止)
他者との関係で言えば、
①自分のやった行為に対するフィードバックを母親が奪うために、他者から直接得ることができません(=責任を取ることも成長できません)
②他者との関係を紡ぎ直すことができません
つまりD君は、成長することも社会とつながることもできない(禁じられている)のです。
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図を見ておわかりの通り、PとAができないD君の代わりに、母親がPとAで社会と接しています。つまり、母親がD君のPとAの代行をしているわけですね。
母親が、子どもに欠落した機能を育てるのではなく、直接補償(カバー)してしまっています。母親が子どもに成り代わっており、母親が子供の自我のパート(PA)を代行して“母子一体”となっています。
ある機能が他で代行されている場合、その機能は発現しません。D君の側から見ると、D君はいつまでたってもPAが内在化されず=大人になれず、母親なしではコミュニケーションできないという“母子密着”の状態に陥ってしまいます。この母子癒着の構造を「母子カプセル」と言います。
尚、母子カプセルは次のような状況下で起こります。
1,父親が背骨を持っていない
2,父親自らが家庭にコミットしようとしない
3,夫婦の権力関係の中で父親が子どもに関わらせてもらえない(巧みに遠ざけられる)
4,上記の要因の組み合わせ
母子がまっすぐな関係性を持つためにも、大黒柱たる父親の役割は大きいのです(尚、なぜ上記のような状況になっているのかは、父母双方に世代間連鎖の問題があります)。
■注1
父親がいなければダメと言うことではありません。母親であれ父親であれ、背骨を持った大人のモデルが子どもの身近にいることが大切なのです。母子家庭であっても、母親がBeingであれば母子カプセルになることはありません。むしろ、父親がいない分、父親役までやろうとして子を追い詰める例がよく見受けられます。お気をつけて。
・ロザンナさんへ-母親は父親にならなくてよいのです
■注2
父子カプセルも当然あります。
・岡山突き落とし事件-「父子カプセル」が招いた悲劇
■注3
母子カプセルを基にした家族ゲームが悲劇を生むこともあります
・「カープマンの三角形のドラマ」と「母子カプセル」
■注4
・第5部 6)家族が癒着する「家族カプセル」の構造
■注5:事例
・4-1)仕送り月40万円の意味(母子カプセルのへその緒)