子育て心理学:第5部 5)子供の「檻」であり「外骨格」となる親
第5部-子どもに「何を」育てるのか?(自我形成編)
■5)子供の「檻」であり「外骨格」となる親
前項で、母子カプセルの背景には「背骨を持たない父親」の存在があることがわかりました。それを図で表してみましょう。
下図では、Pを区分してCPとNPの両方を表しています。わかりやすくするために、父親はしっかりしたPもAも育っていないので色は白で表します。抑圧されたC(感情)は闇に隠れているので点線で表しています。この図で、いわば「背骨のない父親」を表しています。
母親は、やはりCは抑圧されており、CPも健全に育っていません。そして、過保護・過干渉となっているNPが肥大化しており(ピンク色)、冷静な判断をすべきAもピンク色に染まっているので、Aも正しく機能しません。このような状態を「PがAを汚染する」と言います。
子どもにCはありますが、母子カプセルの中で母親のPとAが子どものPとAの代行をしていますので、子どものPとAが育たないことを点線で示しています。

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さて、上図の赤い丸で囲まれたカプセルの中を見ると、母子2人合わせてPACがワンセットしかないことが分かりますね。
子どもにも母親にもしっかりしたCPがありませんので、それを肥大化したNPがカバーしています。そのカバーの仕方は前項で見たように子どもを世間から隔絶するようなカバーの仕方でした。世間は母親という壁に阻まれて子どもに直接関われませんし、子どもは自分のやったことについて世間から直接フィードバックをもらうことができません。この母親のカバーの仕方は、まるで世間から子を守る甲羅のようですね。
CPという内骨格(背骨)がなければ、フニャフニャして自分を支えることができません。この世で生きていくことができません。では、内骨格がなければ、どのようにして自分を支えるのか。
そう、甲殻類という生物がいますね。内骨格の代わりに外骨格で自分を守るのです。母子カプセルでは、母親の肥大化したNPが外骨格の役割を果たしているのです。
この母子カプセルを異なる図で表してみましょう。下図を見てください。

上図は、母子カプセルの怖い本質を表した図です。
母親の保護的NPが外骨格となって、自分と子供を覆っています。子どもはその中に閉じこめられ、PとAの機能は母親が代行するためにCのままで居続けざるを得ません。子どもは社会性が身につかず常に母親に依存するようになり、母親は子の自我を代行し続け、いわば母子の自我が一体化してしまうわけです。
まるで、母親が胎内に子供を抱え込んでいるようなイメージですね。
そうなんです。子どもをいつまでも手放したくない。いつまでも自分のお腹の中に閉じこめておきたい―存在不安から来るこの無意識の願望が、母子カプセルの怖い本質なのです。この中で生きている人は、「現実」を生きることができません。たくさんの事例がありますが、幾つかあげてみます。
★母子カプセルの病理-------------------------------------
・母子分離前の乳児がそうであるように全能感を持ちます。
・母子分離ができていませんから、自他の区分もできません。なぜなら、親と自分の関係が他人と自分の関係にスライドするからです。すると、自分の思いが相手の思い、というようなストーカー心理も生まれます。
・母親に依存せざるを得ませんから、少年A(酒鬼薔薇)が感じたように「母親が世界」になってしまいます。
・外の世界に関しては実感を得ることができません。ですから、外の世界は「つくりもの」になってしまうのです。
・しかし、母親の監獄世界の中で気持ちを受け止められることはありません。世間ともつながれないままに「絶対零度の孤独」を生きることになります。
・世間からも親からも自分の気持ちを受け止めてもらえなければ、この世に自分が存在しないのも同じです。「透明な存在」になっていくしかないわけです。
このように、母子カプセルとは、一見子どもを守る外骨格のように見えて、その実は子どもを閉じ込めている檻なのです。母親が「世界」となってしまったとき、子どもがどのようにのたうちまわるのかは下記をご参照ください。
・母親という「ザ・ワールド(世界)」
甲殻類は脱皮することにより成長しますが、子どもが母親という殻を脱ぎ捨てるには、自分の中に内骨格を作り上げなければなりません。父親が内骨格を作る手助けができないのであれば、他の大人がその手助けをする、そういう地域との関係を作る必要があるのです。
・「大人になれない大人」の構造
・ハラッサーとは-その定義と特徴