IP(インナーペアレンツ)の逆襲―自分が自分に与えるネガティブフィードバック
初めて自分の思いで行動できた。楽しかった。成功した。やったー!!
というような出来事があったとしよう。
すると、その日の夜や翌日に、ズドーンとIPが強烈な逆襲を仕掛けてくる。
「おまえごときが」
「何様のつもりだ」
「いい気になるな」
「出しゃばりすぎだ」
「大それた事をするな」
「浮かれてんじゃねぇ」
「身のほどを知れ」
「恥さらし」
「大きな迷惑だ」
「二度と表に出るな」
とまぁ、情け容赦ないメガトンパンチ(その実は、小さい頃からことあるごとにいろいろな場面で聞かされてきた、あるいは態度で示されてきた両親からのやっかみなんだけどね…--;)。あれこれと至らないところをあげつらい、そこに意識を集中させて自分を責めてくる。つまらない「木」を見させて豊かな「森」を見させない。
森全体を俯瞰できる傍から見ると、その事実の取り上げ方が偏っていたり、事実の解釈の仕方があまりにも一方的だったりするのだが、「プログラム化された思考パターン」に陥っている本人はそのことに気づかない。
同時に、ドーンと孤独、淋しさ、不安、恐怖、鬱状態が襲いかかってくる。
「金もないくせに」
「仕事もしてないくせに」
「遊んでばかりいるな」
「怠け者」
「働く者食うべからず」
「明日からの生活はどうするんだ」
…ほんと、どこかで聞いたような言葉ばっかりだねぇ(--;)。
ほっとけ!と言いたいような陳腐な文句が並んでいる。
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あるミュージシャンの男性Dさん。
自分をがんじがらめにするIPと自分を突き上げる怒りのIC(衝動)。その二つの地獄から、2年をかけてようやく這い上がれるところにやってきた。
そういうある日、素晴らしいセッションを体験した。心が躍った。こんなに楽しいのは生まれて初めてだった。
すると翌日―ドーン!と痛切な不安が襲いかかってきたのだ。
Dさんは息も絶え絶えのような感じだったが、私から見ると「おぅ、よくやったな!」という気持ちだった。
これだけIPがなりふり構わず全力で襲いかかってきたということは、IPが追い込まれているということなのだ。もはや追い詰められているのは自分ではなくIPの方なのである。だから「強烈な不安感情」をなりふり構わず押しつけてくる。
これだけあからさまに見せたということは、IPがその姿を現したということ。追い込まれて引きずり出されたのはIP。もはやターゲットは明確になった。だから、相手が強烈な不安の中にいるのに、「おめでとう!」という変な会話になったりする(^^ …もちろん、一通り気持ちを聴いてからですが)。
なぜ、おめでとうなのか?
それは、IPが悲鳴を挙げだしたからだ。
その悲鳴は、いよいよこれからIPvsICの本格的な闘いに入るという「号砲」なのだ。
そして、この闘いは必ず自分が勝利を収める闘いなのである。
なぜなら、この2年間の苦闘の間に自分とICが手をつなぎ、自分が一人で立てる背骨を作ってきたからこそ、IPがあぶり出されてきたからである。
強烈な不安が襲ってきたということは、実は、もう自律寸前に来ているということに、IPがお墨付きを与えてくれたようなものなのだ。
だから、「よくここまできたね、おめでとう!」なのである。
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一度あぶり出されてくると、出てくるスパンが短くなる。
次にDさんを強烈な不安が襲ったのは、とても嬉しい出来事があった10分後だった。それこそ、外でバタンと車のドアの音がしただけで、金の取り立てに来た!という妄想までよぎるような不安感だった。
彼は、「あ"ぁ!!!」と大声で叫んで不安を打ち払った。
「身体が反応するのが悔しいけど、でも、もう笑っちゃいますよ。だってわずか10分前に嬉しいことがあったばかりですよ。それなのに、なんの脈絡もなくいきなり不安が突き上げて来るんだから」
「これじゃあ、なにやったって不幸にしかなれないようになってる。ムチャクチャですよね」
不安感だから“実感”する。しかし、それがIPの仕業とわかっている。だから、心に余裕がある。
「にしてもIPさん律儀だね~。“お勤めご苦労さん!”って肩叩いてやるといいよ」
「ほんとですね!」
二人で大笑いした。
「いやぁ、勝てる勝負っていいですね。楽しいなぁ」
今や彼は、“不安”を楽しんでいる。目に感情を宿していなかった2年前とは別人。否、つい最近までとも別人。生活は墜落すれすれ低空飛行だが、心は何より希望に満ちている。
このように、IPが「孤独」「淋しさ」「不安」「恐怖」を引き連れて強烈な逆襲を仕掛けてくることがあるが、それはIPが追い詰められているから。あなたが自律一歩手前に来ている証拠なのだ。不安に襲われたとき、事実を俯瞰して冷静に眺めてみるといい。不安になるいわれがどこにもないことがわかるはずだ。動じることはない。
実は、この現象は恒常性(ホメオスタシス)維持のメカニズムなのだ。すべてのシステム―生物の身体から、個体が集まった家族や会社などの組織、地域や社会体制にいたるまで―は、恒常性(ホメオスタシス)を維持しようとする働きがある。
『現状を変化させようとする行為をポジティブフィードバックと言い、その結果新たな状態に移行することを「形態発生的変化(モルフォジェネシス)」と言います』
『新たな動きが起こった場合、それを収めて原状に戻そうとする行為をネガティブフィードバックと言い、その結果元の状態に戻っていくことを「形態維持的変化(モルフォスタシス)」と言います』
【第2部-3、家族の機能(調節弁)として生きた子ども】
自律してはいけないという脚本で生きている人にとって、嬉しいことや楽しいことは自律に向かうポジティブフィードバックだ。この時、その人の生体システムは、これまでの生き方(脚本)の恒常性を維持しようとネガティブフィードバックを仕掛ける。それが、「不安」や「恐怖」の感情なのである。
つまり、「喜び」「嬉しい」「楽しい」-このようなポジティブフィードバックを打ち消すためのネガティブフィードバックが「不安」や「恐怖」というわけだ。つまり、先にも書いたが、IPとはあくまで単純なプログラムなのである。
(と、システムズアプローチの観点から書くと、つまんね~^^;。擬人化していた方がおもしろ~。でも、わかってしまえば他愛もないものなんです)
ま、だから、「不安」や「恐怖」が脈絡なく出てきたら、うろたえず、
「おつとめご苦労さん!」と声に出して言って、笑い飛ばそう。
シュンとして消えていきます(笑)。
人間、不安を笑い飛ばすことができるんです(^^)。
そして、あなたは勝利する。
その先に待つのは、限りなき自由の空。
あの空の向こうに広がるまだ見ぬ新世界。
その世界に向かうスタートラインに、あなたは立つ。
不安や恐怖で小さなところへ押し込めようとするIPを蹴散らせ!
ピッタリの歌を贈りましょう。
【lecca 「スタートライン」】
小さい水槽の中に自らを閉じこめておこうとする自分。
まずはプールへ。
そして、やがては大海原へ―
親とのへその緒を切ったとき、あなたはこの地球のどこへでも自由に行くことができるのです。