夫婦再生物語-(5)素直になれよ、おまえ
虚勢は無意味。
意固地は捨てろ。
素直になれ。
安心できる相手が見つかったんだろう?
おや…まだ、わからないのかい?
なぜ、今、これまでずーっと封印していたものが出てきた?
その寂しさは、いつ出てきてもおかしくなかったはずだ。
でも、おまえは自分自身でさえも気づいていなかった。
だから、思い悩むこともなく日々が過ぎていたなぁ。
そう、活断層の上と知らず不安を感じることなく生活している人のように。
が、いきなり大地震がきて地割れからマグマが噴出した。
なぜ、あのショッピングの時に不意に寂しさというマグマが出てきた?
地震の予兆はなかったか?
ほら、あっただろう?
「俺は、あのおふくろを許さない!」―その言葉が出てきた時さ。
心の奥底に隠していた母親への思いを、おまえは生まれて初めて言葉にした。自分でも驚いていたね。あのとき、おまえの心の岩盤が割れた。
なぜ、割れたか。
おまえが奥さんを信頼したからさ。
なぜ、信頼できたか。
その前に奥さんと正面から向き合ってエンプティチェアをやったね。そのときにおまえは、奥さんが自分の気持ちをわかってくれたと感じたからだよ。
そのエンプティチェアに行き着く前に、二人ともそれぞれが自分の学びを深め、自分と向き合うための日々があったね。それを先にしたのはおまえだった。そのおまえの変化を見て奥さんが続いた。
でも、おまえが先に自分と向き合うことになったのは、奥さんが自分と向き合う姿勢を持っていたからだ…。
お前たちは、このようにあたかも一体の両足のように、右足が先に進むときは左足が支え、次に左足が進むときは右足が支え…、そのようにして共に歩いてきたのさ。
次の一歩をどう踏み出していいか迷っているときは、片方の足に全体重がかかって苦しい思いをしたね。また、一歩踏み出そうとしているのに後足が残って苦しい思いをしたこともあったね。それぞれがそういう思いをした。
違う人間が一緒に歩き始めるわけだから、最初からうまく行くはずもない。転ぶことも、すりむくこともある。
でも、そういう体験を経て、ようやく、それぞれが両足で立つことができるところにきたんだよ。お互いに、どこへでも歩いていける両足を持つことができたんだよ。
おまえの奥深くからICが出てきたということは、
両足で立つ奥さんに安心したということなんだよ。
たとえその感情が、怒りであれ恨みであれ憎しみであれ、
その感情がその相手の前で出てきたということは、
その相手に心を許したということなんだよ。
相手がおまえのその感情を受け止められるところに来たということ
―それをおまえのICが察知したからこそ出てきたんだよ。
母への思いをおまえは口にした。
次に、そのさらに奥から妻への思いが出てきた。
つまり…
おまえは、お母さんも愛してはいるが、
それ以上に、
奥さんのことを深く愛しているのさ。
失うことを怖れているね?
自分たちの歩んできた歴史を信じなさい
こんなことで崩れるほど、ヤワな関係ではなかろう?
怖がらずに、
ありのままをぶつけるといい。
おまえが涙した「旅人」の2番の歌詞…
『心折れた鳥が 羽根を休めた場所
それは記憶の街 はしゃぐ君の笑顔』
おまえは、この先もずっと、あの記憶の街で生き続けるつもりか?
あの時に出逢った、彼女の笑顔を胸に抱き続けて…
『旅人よ もう一度めぐり会えるために
手のひらにおぼえた 勇気を出すよ
誰のため 何のため 祈り問いかけては
風に書く手紙 君に届け』
本物の勇気を出せ。
【「旅人」Full ver】
素直にそのまま出そう。
もしかすると脅しと取られるかもしれない。
でも、
そのまま出そう。
私は、ICの哀しみの叫びを、
そのショッピングの日の夜そのまま妻に送った。
翌朝、妻は読むだろう。
…明くる朝、妻からメールの返信が来ていた。