夫婦再生物語-(6)妻からのメール
★-----------------------------------------------------
ひでし君は、自分を否定しないあたたかいやさしい笑顔のお母さんを求め続けているんだなぁということがよくわかった。
私は、
男性を信じることが出来ない部分と、
信じることが出来る人を求める部分があった。
ひっそりと自分の女性性を大事にも思っていた。
自分を解放してあげる時間を持ちたくて一人暮らしを始めた。
結婚したら家事を楽しめるようになりたかったから、一度は家事(7人家族の食器洗いや洗濯や掃除や買い物や朝晩のご飯と味噌汁作りなど)から離れて自由を手にいれたかった。
私のしたいことをしたいが、したいことをする時間がない。
このままじゃ親を恨む日が来るとわかっていた。
だから、連れ子生活と決別した。
なのに受け皿体質の私は、気がついたら大学生の彼氏のご飯を作り続けていた。交代の約束だったはずなのにね。
なんで?また我慢してやっちゃってるの?
だって、仕方がないじゃない。誰も作る人がいないんだもの。
流しの洗い物を頼んで、今日こそやってくれていると思って会社から帰ると毎度山のままで、それを見るたびに泣きたくなった。私は飯炊き女でしかない・・・。何も大事にされていない
理想の男性に会ったら、安心していられると期待したのに飯炊き女だよ?
いいの?それで?
求めるばっかりの男だよ?
今までこんなわがままな男なかったでしょ?
そうとわかったらとっとと別れるでしょ?
なんでこの人といるわけ?
きっとこんなチャイルドもいたのだろうなぁと思う。
なのに、子どもの頃から諦めることに慣れていた私は、今は仕方がないやって諦めていた。
いや、いつの間にかどこにも自分の理想の男性なんかいないんだって諦めていた。そう、とっくに諦めていたんだ。
★-----------------------------------------------------
ほんと?
諦めている?
そうだね。
私に何かを押し付けてこない人だったらいいな。
私が自由にお洒落しても楽しんでいても文句を言わない人だったらいいな。
私の若い頃の好きなお洒落を思い出してみよう。
ミニスカート好き。でも、ミニスカートは他の人の前で駄目と言われて、たちまちつまんなくなったんだ。
フレアスカートも好き。くるくる回って楽しんだ。
タイトスカートの長めのもすき。だって、着こなしで背が高く見えるんだよ。
でも、これも禁止されたんだ。
子育て中には、母娘おそろいのギャザースカートを作って裾にフリルをつけてみたらとっても可愛いスカートになった。
スカートが風に翻るのが好きだった。
会社時代はお洒落したくてもお金がなかった。
それに、いちいち私の格好に文句を言われたんだ。
いい!とか悪い!とか言われ続けてお洒落は楽しくなくなった。
いい!とか悪い!じゃなくて、今思えば「可愛い」とか「今日は素敵だね」とか言って欲しかったんだね。
なのに評価しかされない、つまらないどころかお洒落がまるで学校の勉強みたいな感じ。評価を気にするなんていやだ!
結婚してからは姑に、赤いワンピースに茶の毛皮っぽいコート姿を「それじゃ夜の商売女みたいだわねぇ」と非難された。後日、そのコートにはこんなのが合うとスカートが送られてきた。私的にはありえない組み合わせだ。そのコートに袖を通したのは、それ以来数回しかない。ケチの着いたコートを着る気持ちになれないのだ。他にも色々言われて疲れちゃった。
すっかり面倒くさくなった私は、女なんか無価値なんだって諦めた。
化粧もお洒落も批評されるだけ。楽しむものじゃない。
傷つかないためにはクレームを言われない格好をしたらいいのだ。
多分、だから、自分のお洒落を自由に謳歌している人に嫉妬していたんだ。通りを歩くカップルがアンバランスでも女性が活き活きしてると羨ましかった。私のことを言うけど自分の姿がどんな素敵だと思ってんだ?って心で悪態ついたり。
むしゃくしゃしないために諦めたんだなって思う。
子どもを育てるのに邪魔にならないため?違うよ。
お洒落したらお金もかかるし、手間もかかるし、助けてくれない状況で私のやりたいことが出来る余裕がなくて・・・そんなことの恨みもあるみたいだ。何もしてくれない夫がなんで私に色々求めてくるわけ?ふざけんな、みたいな気持ち。
女性性を捨てていると思われていたんだね。
確かに男っぽい格好もしたかったよ。可愛いも、きれいも、かっこいいも、ダサいも、いろんなお洒落があるんだもん。でも、そのどれも全部諦めた。
私は私の面倒を見る暇なんかないんだから諦めるしかないじゃん。
何より「あなた色に染まります」的には気持ちが悪くてとってもなれなかった。私はいやだ!私の心まで捨てるなんて出来ない!
★-----------------------------------------------------
そうしたら娘が自分の夢を叶えている不思議さ。
やりたいように誰にも文句を言わせないで、ちぐはぐなようで絶妙な、私がやってみたかったお洒落も、フェミニンなお嬢様みたいなお洒落も、ぼろを集めたようなお洒落も、スーツも、みんなみんな私がやってみたかったお洒落だから小気味がいいったらありゃしない。
お姫様にも、ルパンにも、ウルトラマンの母にもあこがれた娘は、何々らしさという枠を超えている。その日の自分を楽しんでいる。
いいなぁ。
タトゥーっぽく肩に絵を描いたり、前髪半分をドレッドにしてみたり、面白くて仕方がない。しかも今の夫は「若いうちだ、やりたいことをやれ」と言うんだから自分のことみたいに見ていて楽しいし嬉しい。
太ってからスカートをいくつも捨てたはずなのに、最近いくつか出てきた。
もう、留め金がさびている状態で、ウエストもとっても細い独身時代のスカートだった。未練だなぁ。
やっとそれを捨てた。
今の私は夫を気にしないで新しいスカートを自分で手に入れることが出来る。
自分で選んで好きなスカートを文句を言われないではくんだ!
そう思え始めたから古いスカートを捨てた。
去年の夏の帰札にほとんどスカートで出かけた。
ヒールは疲れたけどとても楽しかった。
一人で帰ったから、私の格好に誰も直接文句を言う人はいない。
長いスカートは苦手な冷房から守ってくれるし、フレアだから女性らしさを味わった。
気持ちがいいな。
ホテルの部屋の鏡でちょっといい気分になった。
ああ、こんな楽しさを自分で諦めてきたんだ。
自分を主張できなかったのは私。
諦めたのも私。
★-----------------------------------------------------
妹と広島で会った時に「黒い人」と呼ばれたっけ。
黒しか着てないんじゃない?あの頃。
トレーナー、ジーパン、ポロシャツ、みんな黒っぽい色だ。
黒が悪いと思わない。黒いお洒落も素敵なんだから。
でも、黒ずくめはいただけない。ネックレスひとつせず、バックも上着も黒だもんね。どれだけ自分を守ってたんだろう。
色を勉強していた妹は
「赤が似合うんだから赤を着なさい」としきりに言っていた。
赤なんて!
実は大好きだよ・・・とは言えなかった。
今は黒はぐっと減った。
ピンクと黄色がたんすに仲間入りした。
ああ、昔みたいだな。
白とか淡いブルーとかオレンジとか明るい色ばかりだった頃になりたいな。
もちろんシックな色だっていい。
鎧になってなければどんな色もどんな柄も楽しいものになるんだ。
先日スーツを買いにいった。私が最近欲しかった感じ。
男っぽいものじゃなく丸みある女性らしいもの、だけど今の小太り体系にいいもの、焦る気持ちはない。なければ他の店で会えるのをまつからいい。
ギャザースカートとプリーツスカートも欲しい。
いつの間にかスカートが数点しかないんだもんね。
でも、選んだその時、私の好みや着心地とかは関係なく見た目とか印象で自分の好み(?)を勧めてくる夫に内心疲れていた。私のお洒落を信じない中尾家って浮かんだ。
娘を信じても私を信じない夫。
夫は多分きっとお母さんに甘えてないから
一番近い女性を信じることが出来ないんだ。
夫に、もっともっとと言われるたびにぐったりした。
彼はわが子にも「もっともっと」を求め続けたけど、
人の尊厳をなんと思ってるんだろう?
全部自分色じゃないとだめなのか?
私だけじゃなくわが子まで?
もっともっと・・・
彼はそうやって自分にも追い立てるように生きてきたんだって
最近わかった。
私のなくした時間は大きいけどさ。
★-----------------------------------------------------
私は?
ふと思ったけど、私は?
彼に何を求めている?
男らしさ?(これはもう十分)
お洒落?(夫は自分で冒険しないから娘と色々その気にさせる作戦を楽しんでいるけど、嫌がることをさせようとは思わない)
お父さん?(勝手に作り上げた理想の父や夫を押し付けた過去は申し訳ないけど、今は全然ないなぁ)
今、お母さんになってもらったりお父さんになってもらって、
小さい私がどんどん出てくるのでありがたいけど、
そのままずっとお父さんやお母さんをやってもらいたいなんて思ってない
しなぁ。
きっと私は
彼自身でいいと思ってるんだな。
やっと、
そこに来れたんだって思う。
父親を知らないから幻想もあった。
実の父親の住んでいるところもわかって、会うか会わないか、
この夏に姉と相談するつもりだ。
見捨てていた父親を私なりに拾いにいこうと思うんだ。
もう拾ったのかもしれないけれど。
★-----------------------------------------------------
マイケルやジョンレノンや、みんな自分発信だった。
夫も自分発信だ。
私発信でいいんだ。
誰かがやるんじゃなく私の気づきを発信するのもいいんだ。
受け皿だけじゃなくていいんだ。
私は私でいいんだ。
私はこれまでの鎧を外して、
戻りたい場所の私に戻っていいし、
遣り残したことをやってもいいんだ。
誰にも文句を言われなかったらきっと私なりに輝けるって気がする。
★-----------------------------------------------------
制約の多い人生だったけど、
私はもうそんなものはいらないよ。
中学の時、親友が私を赤毛のアンみたいだと言った。
読んだこともなかったけど、多分私の心が自由だったからなんだと思う。
家の手伝いは仕方がないけど
「心は誰にも束縛することは出来ない!」と信じていたし、
その通りに私の心は全て自由だったじゃないか。
自由、なはずだったのに
・・・いろんなことが変わっていた。
「真智子じゃないみたいだ」と親友に言われて、
大人になるってことはそういうことなんだって思い込もうとした。
親友はずっと自由を大切にして素敵に生きている。
いまだに「真智子に会って私は変われたんだよ~」とまで言ってくれるのにね。
★-----------------------------------------------------
けれど、今朝、ひでし君の願いを読んだ。
苦しいなぁ。
夫じゃなくひでし君だとしたら、叶えてあげたいなぁ。
昔、社会人の私に洗い物を残したのも小さなひでし君がお母さんを求めていたんだね。
高校で親と離れて下宿生活でせいせいしたといっていたけど、
小さいひでし君は甘えたかったんだよね。
だから家事手伝いやってきた私に甘えたんだね。
お互いなんて可愛そうなんだろう。
でもね、ひでし君、
私はお母さんじゃないんだよ。
私はひでし君の夢を叶えるために努力をしたらまた連鎖が続くんだよ。
また犠牲的精神を発揮するわけにはいかないんだよ。
そして、私は私と向き合って、楽しい家事をしたいんだよ。
そんなときを過ごす日も多くなってきたんだよ。
お洒落もね、ひでし君の絶対にはなれないと思うけど、
ひでし君がいいなぁって思う女性らしいお洒落を出来ると思うよ。
多分そんなに変な格好はしないと思うよ。
私の自由を認めて信じて欲しいな。
ただね、書いていてやっぱり思うよ。
小さいひでし君を癒すのは大人の英司君で、
もともとのお母さんに欲しがってたものをもらえなかったんだってこと。
他の女性でもだめなんだろうなぁって感じるよ。
今の現実のお母さんでもだめなんだろうなぁって感じるよ。
過去のお母さんは今のお母さんじゃないからね。
ひでし君を癒すのは大人の英司君しか出来ないんだよ。
★-----------------------------------------------------
生きる死ぬってことなら、私は遣り残したことだらけだなって思う。
だから、今死んでもいいって思える英司さんが羨ましい気もする。
だけど腹が立つよ。
だって人の犠牲の上に好きなことをして、とっととおさらば?
子どもたちは親に死んで欲しいなんておもわないよ。
私に絶望したというくだりはちょっと傷ついたけど、
それ以上にもっとひでし君を可愛そうに思った。
複雑な手紙を貰った。
ああ、また自分を犠牲にしようとする自分が現れた。
ああ、私が頑張るしかないのかって思ういたいけなチャイルドに、
もう引き受けさせるわけに行かない。
やっと最近わかったんだ。
親とのことで、まだ彼は彼自身が取りこぼしてることがあるんだなって。
でも、この手紙は冷静になってみたら、脅迫だよ。
私のせいで死にますってさ。
どんなIPがさせたのさ!
そんな理由で死ぬならそれまでの人間なんだよ!
この手紙・・・小さなひでし君もたくさん感じるけど、IPも随分顔を出してる。
やれやれ。
IPはこんなこともしやがるのか・・・。
純粋なひでし君の願いまで利用して中尾英司を殺そうとするのか。
そんなに彼のやってることが気に入らないのか。
彼が彼の人生を生きることを邪魔するのか。
彼が生きて父親になる過程まで邪魔するのか。
彼を待っている人たちがいるのに、彼の人生を終わらせようというのか?
小さなひでし君を利用して。
この卑怯者!
とIPになぐってやりたい。
私に絶望するならしやがれ。
私もとっくにいっぱい夫にも自分にも自分を取り巻くものにも絶望した!
とっくの昔に絶望した!
絶望して、もう終わりだって思いながら過ごす日々の中で、むっくり沸き起こった気持ち
「本当にこのままでいいの?」
それだけ・・・。
その気持ちに導かれてここまで来たんだ。
私は、人生はこれからだって希望を持っている。
今を許さないでこれからはない。
私といたくないと思ったひでし君を利用したIPの言葉は知らん!
私は私でありながら、
もしひでし君やもちろん息子も娘もちょっぴりハッピーになったらいいなって思うけど、それは相手のお話。
★-----------------------------------------------------
希望に添えないお返事でごめんね、ひでし君。
君はお母さんが大好きなんだよ。
本当に本当に大好きなんだよ。
お母さんになってあげられなくてごめんね。
お母さんごっこなら出来るよ、ごっこ遊びも楽しいもんだよ。
大人だって子どもに戻ってもいいんだよ。
小さな君が癒されるなら協力するよ。
でも、私自身を変えようとするなら無理だよ。
もうね。
君からずっと英司さんを通じてハラスメントという形で受けてきたんだ。
苦しいんだ。
だから、君の願いは私は叶えられない。
私が変化する中で君の好きなお洒落が出来たり、
ひでし君が好きな女性になっていたらそっと喜んで欲しいかな。
ひでし君好みになってあげたくなる思いが湧いている母性強い
中尾真智子より
PS;
ひでし君の哀しみがいっぱいいっぱい伝わったよ。
抱きしめたいよ。
大好きだよ。
愛しているよ。
読み終えて間もなく、襖がトントンと叩かれた。
促すと、妻が襖を開けて入ってきた・・