夫婦再生物語-(7)抱きしめたい
妻が入ってきた。
エアポケットのような空間
静かな感情、静止した時の中を妻が近づいてくる
そして、
椅子に座っている私のそばに立つと
私の頭を包むようにその胸に抱きしめた。
そこにいる妻は、もう侵入してくる妻ではなかった。
だから、心にバリアを張る必要はもうなかった。
ふーっ
と呼吸が抜けた
私の心の芯部から、かすかな振動のように
悲しみがわき上がってきた。
深部の地震波が表層に伝わっていくように
その悲しみは放射状に広がって、私の身体を小刻みに揺らした
その震えに呼応するかのように
しかし、それでも押し殺すかのように声がでてきた
小さなひでし君が泣いていた。
★【妻からのメール】--------------------------------------------
気を取り直して朝の「おはよう」とハグのつもりだった。
なのに、小さなひでし君が浮かぶ。
私は天井とか上の方から見えている
顔は息子ではないし体格も息子ではない。
小さなといっても、小学生くらいで寂しさを湛えて我慢してる感じの子。
のびのびさはない。
うずくまったり、歩いていたり。
ああ、つかまえた!!
いっぱいハグして
いっぱいよしよし
したいまました。
ああ、この子の痛みが感じる。
いたかったね、
寂しかったね。
いろいろうずまくけど、
寂しさ
がとても強い。
寂しかったんだね。
一人ぽっちでいたんだね。
この子は泣くこともしないんだ。
泣きそうになっても泣かないんだ。
目頭に溜めて泣かない。
なんて我慢強いことを強いられたんだろうか。
泣いていいんだよ。
男だって
泣いていいんだよ。
抱きしめている体が震え始めて
声が聞こえた。
ああ、自分のために泣けたんだね。
いとおしいよ、
君がいとおしいよ。
ただただ、いとおしさだけが私の中を流れていた。
体中の血が
「いとおしい」になってめぐっているのを感じた。
私の中を愛がめぐる。
この子はすくわれなくてはならない。
こんなところに置いておくわけにいかない。
寒々しい景色の中で、
白黒ぽいセピアっぽい世界でぽつんと過ごしていたなんて。
ランドセルも見えそうで見えない。
私の視界のはじっこに隠れているみたいだ。
半ズボンだったり、長ズボンだったり、
痩せている。
せかせかしていない、
とぼとぼしている、
せつない感じ
歩きたくないのに歩く感じ
泊まって座ってる感じ
ほんとはのんびりもしたかったんだね。
もう、一人じゃないよ。
君を知っている人がいるよ。
大人の君と私と、もしかしたら他にも感じる人がいるよ。
君が発信してきたおかげだよ、
自分を諦めなかったんだね。
偉かったね。
大人の君は偉そうにも自分の命はやりつくしたなんて言ってるけど、
君はまだまだだって思ってるね。
僕はまだゆったりしてないって。
僕はまだ寂しいって。
君は「お母さん」って言葉を
まだ言えないでいる。
お母さん好きだっていいたいね。
でも怖くていえないね。
そんな…小さな男の子を抱きしめた。
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東西南北へ吹き抜けていた風は、
ようやく凪いでいい場所に
たどり着いた
ぽかぽかと暖かい
山懐に囲まれた
小さな港のような場所に―
そして、木漏れ陽のやさしさに包まれて
心の奥にしまいこんでいた大切な箱を
今、開いた
【松任谷由実 「やさしさに包まれたなら」】
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