「躾と虐待の違い」-玉井邦夫先生の講演より
●虐待とは--------------------------------------------------
abuse=ab(逸脱:例→abnormal=正常から外れた)+use(取り扱い)
→「不適切な取り扱い」
(米国の電化製品には→「Don't Abuse」と書かれているそうだ)
つまり、子育てにおいて、子供が適切でない扱われ方をしたときは、すべて「虐待」となるわけだ。では、よく言われるしつけと虐待の違いは何か。
●躾と虐待の違い--------------------------------------------
1,躾には時期がある
2,親のパワーの行使(褒める、叱る)に一貫性がある
3,子に主導権を持たせる
(1の事例)
・「いいウンチ出たね~」と喜ばれていたのが、ある日を境にいきなり「おまるでしなきゃ駄目でしょ!」と怒られる。幼児にとっては理解不能。幼児自身がオムツにするのが体感的に嫌になったり、おまるですることの意味を理解できたり、親の都合ではなくそういう時期を見計らって導くことがポイント。
・例えば少年Aの母親は、生後一ヶ月で『トイレでウンチさせた。なるべく早く、そういう習慣を付けよう』と書いている。つまりこれは、abuse(不適切な扱い=虐待)
(2の効果)
・大人に対する信頼を培う。大人は交渉に足るんだということがわかる。
・交渉できることがわかれば、世界を変えることもできるという希望が生まれる。
・逆に一貫性がなく、子供がどんな対応をしても叱られるとすれば、子は自分の存在自体を否定されていると感じていく。
(3の意味)
・しつけは“押しつけ”ではない。
・押しつけられたものは身につかない(型どおりで心がこもらない)。
・1と2の姿勢で接することにより、子の人権を尊重することになる。
*すべての基本になければならないのは基本的人権の尊重です。
・「無条件の愛情」が基本的人権を守る社会の土台
●健康な夫婦・家族とは---------------------------------------
<健康な夫婦>
・成熟モデルである
・夫婦連合がしっかりしている
・決定権限がフレキシブル(権力構造が固定化していない)
・個々人が健康な多重人格性を持つ(P-A-Cの間を自由に行き来できる)
上記がしっかりしていれば、後は子が親を育てていく。
・子が生まれる=生活環境の激変はストレス。どんな環境であれ馴染むまでに3ヶ月かかるが、その間は免疫力があって赤ちゃんは病気をしにくい。
・免疫力が消えていく3ヶ月後には「無差別微笑」が始まって、親の気持ちをつなぎ止めていく。
・さらに選択的微笑が始まって、親に喜びを与えていく。
→このように、赤ちゃんの自然な成長過程が親との絆を育んでいく。こうして夫婦は赤ちゃんによって父母へと育てられていき、次のようになる。
<健康な家族>
・親が自律モデルである
・夫婦連合があり、世代間境界がある
・決定権限がフレキシブル(子も含めて決定権がある)
・個々人が健康な多重人格性を持つので、親が子のレベルにおりることもできる(子の自我形成を支援するために親は意図的幼児退行ができる)
●虐待はなぜ起こるのか--------------------------------------
上記家族システムのどこかに病理があるときに虐待が起こる。
結局、虐待をなくすためには
『自分と親との関係は何だったのかを振り返ること』
(↑もっとも大事なポイントをいわれました)
●虐待を受けた子供と接する際の留意点--------------------------
1,語られない喪失部分がある
ビデオでCMカットをするように、たとえば殴られている部分の記憶を消していることがある。
2,リミットテストをしかけてくる
リミットテストとは、どこまで自分の要求に応じてくれるのか試してくること。これほどの虐待を受けたのだから、その対価として無償の愛情を得られて当然という思いを持つ場合もある。援助者の側は得てしてそれに巻き込まれがち。
→ここまではできるけれどもここからはできない、という限界設定(リミットセッティング)をきちんとすること。健常者に対するものと同じ常識的な対応が必要。
3,「性化行動(sexalized behavior)」がある
性的虐待を受けた子供は、様々な理由から性的関心や性的行為を示したり、行動が性的な色彩を帯びてしまったりして、援助者の側が被害(性的虐待)を受ける場合がある。
4,援助者の心構え
「虐待を受けた子供」と対する場合は、自分がその子から「虐待をされている」という認識を持って対応する必要がある。それがない場合、無意識に被害に逢った後で鬱になったり、逆に激しい怒りまで起きるような心の傷を負う場合がある。
●虐待からの回復の工夫--------------------------------------
ドロドロを引き出さないと回復への原動力は出てこないが、それには受け止められるタイミングがある。次のような形で自己表出を容易にする“遊び”で行うのも効果的。
・自画像、家族画を描く
・家族を動物になぞらえて描く
・人形やドールハウスを使って、お家ごっこをする
・パペット(指人形)を使って人形に言わせる
*尚、ごっこ遊びなど、繰り返せば繰り返すほど詳細になっていき、抜け出せなくなっていく場合は、子供に触れたりハグしたりして抜けさせる。また、違う配役を与える。
*フラッシュバックが生じた場合は、その対象から距離をとらせる。
*自分の檻の中で困っているので、その子の認知の地図を広げていくことを目指す。
●「要保護ネットワーク」とは?----------------------------------
これまでは事後対応:火の見櫓方式→ちゃんと燃えてから対応
H16年の児童虐待防止法改正後は予防へ。児童相談所一極集中主義は破綻し、学校と地域が連携して対応する仕組みへ。ただし、地域の対応力が向上しない限り、専門機関は機能不全に陥る。
↓
*地域の重要性、特に私の言葉で言う「受け止められ体験」の大切さも言っておられました。
【ご参考】
・「受け止められ体験」が人を救う
・笑顔が人を救う―佐々木健介
★援助者の心構え--------------------------------------------------------
*援助者の心構えは特に重要だと思いました。
『「虐待を受けた子供」と対する場合は、自分がその子から「虐待をされている」という認識を持って対応する必要がある』―この言葉には衝撃を受けました。
この認識がないままに被虐待児と接して鬱になってしまう学校の先生も多いのではないでしょうか。このことについて改めて掲載します。
・躾と教育と体罰について
・NHK「虐待の傷は癒えるのか」を見て
・家庭という「完全統制区域」
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