橋本武先生の“究極の遅読”の奥義
“伝説の国語教師”橋本武(98)先生の記事だ。
へぇ~、こんな先生いたんだ。
この先生の授業を受けたかったなぁ~、と記事を読みつつ心から思った。
どういう授業かというと、中勘助の小説「銀の匙」(200ページ余)を中学の3年間かけて読むというもの。
主人公が駄菓子を食べれば、買ってきて食べる。
凧揚げやカルタ取りもする。
―そういう究極の寄り道授業(体験学習)だったようだ。
外からの批判をものともせず、50年間貫き通した。
すごいね。以下は、私がすごいなぁと思ったところ。
(勝手に奥義などとつけてすみません m--m)
★奥義1、ストーリーの追体験---------------------------------------
この授業の素晴らしいところは、一つのストーリーを追体験させるところ。
断片的な知識はいくら詰め込んだところで使えない。
一つのストーリーの中に知識が織り込まれているからこそ、そのストーリーとともに知識が身についたとき、人はそれを応用できるようになる。
先生の目標は生徒に知識を詰め込むことではなく、生徒に自信をつけることにある。自信さえつけば、その後の人生何も怖いことはない。
橋本先生に教わった生徒たちは、小説が血肉となり生きる知恵と自信が身についたことだろう。
★奥義2、3年間---------------------------------------------------
それともう一つ。1年ではなく、3年間という期間をかけたこと。
人が成長していくための一つのスパンである。
人が試行錯誤しながら何かをつかんでいくのに3年はかかる。
カウンセリングも同じ。その人のペースで存分に悩みつつ進んでいく。
「すぐ役立つことは、すぐに役立たなくなる。自分で見つけたことは、一生の財産になる」と、橋本先生は言う。
同じことが、さまざまな心理療法にも言えるだろう。
そして、3年もあればそれぞれの子どものいろんなこともわかるだろう。
そういう意味で橋本先生は、3年間生徒に伴走しながら、生徒の成長を見届けていくカウンセラーのような先生なんだなぁと感じた。
★奥義3、「銀の匙」-----------------------------------------------
そして、橋本先生が貫き通せたのは、橋本先生が選び抜いた1冊―「銀の匙
橋本先生は、その選び抜いた題材を3年かけて教えていく“教材”に作り変えた。200ページの本を3年間持たせるなんて、豊かな発想と練りに練った計画がなければできない。そこに真のすごさがある。
いわば橋本武と中勘助二人のコラボともいえる。背骨を持った二人の人間が力を合わせると、こんなにも強い。折を見て是非読んでみたいものだ。
★奥義4、自律モデル-----------------------------------------------
上記のように、橋本先生が「銀の匙」と出逢い、それを教材に作り変えて、生徒を丸ごと乗せて3年間走れる船(土俵)とした。自分が築き上げた土俵に乗っているからこそ、ぶれもせず、揺らぐこともなく、3年間貫き通せたのだと思う。
さらにその土俵は、橋本先生を50年間支え続けた。
『自分で見つけたことは、一生の財産になる』
この言葉は、自らの体験そのものを言っている言葉だから説得力がある。
自らの姿勢と教材という“形”をもって、橋本先生は3年をかけて、ただこの言葉を生徒たちに“体得”させていったと言えるだろう。そう、ちょうど琵琶法師が平家滅亡の長い物語を語りつつ、『驕れる者は久しからず』という一つの教訓を伝えていったように。
先生が自らの姿をもって教えたのは、「自律」という“生きる姿勢”だった。生徒たちは3年間、自律モデルを見続けた―そのことによって自分の背骨を作っていったことだろう。
「百聞に一見はしかず」―何より自律モデルの行動を見ることが、自律への近道である。現代人がなかなか自律できないのは、身近に自律した大人がいなくなってしまったからだ。そういう意味で、3年間自律モデルを見続けたこと―これが生徒にとっての最大の福音だと思う。
その橋本先生のノンフィクションが、昨年12月に出版されたそうだ。
いつか読んでみたい。
・「奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち
ところで、先生が導かれた生徒は約2000人。
下記に生徒だった方の記事がありました。
・拝啓 橋本武先生
最後に、先生方(現場)の自由裁量を認めた度量の広い旧灘中に深く感謝したい。
【201206 追記】
*橋本先生のように子を育てる先生もいれば、先生を育てる子どもたちもいました。「Always 三丁目の夕日」の時代の日本です↓
・先生を育てる社会
*しかし、日本の教育はだんだん硬直化していきます
・教育行政に見るダブルバインドの構造
*そして、監獄のような学校が出現するようになります
・ハラスメント・スクール
*さらに、下記のような学校を経由した2世たちが、例えば政治家や経営者になるとすれば、日本の政治経済は国民から乖離していき、没落していくでしょう。
・教育大国ジパンでの生涯
*日本を立て直すには、背骨を持った日本人を作る以外に道はありません。そのためになすべきことは、そう難しいことではありません。それは、「大人たちがすべてのコントロールを手放すこと」―
それができないのは、根底に不安があるからです。内なる不安を見たくないために何かにしがみつく-それが、コントロール(支配)となります。内なる不安と向き合い、支配を手放し、楽になりましょう。
・教育行政のなぜ?(3)~見守るが、干渉しない
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