危機対応と行政改革はオーストラリア&江戸に学べ
「玉川徹のちょっと待った総研」(テレビ朝日スーパーモーニング)が好きでよく見ていた。取材がストレートで、彼の人柄で相手もまた率直に口を開くので面白かった。8:30頃からのこのコーナーも、今日で終わりとは少し寂しい。
本になったそうだ。
そして、印税はすべて義捐金として寄付するそうだ。
1000兆もの借金がどのようにできたのか、解決した国はどのように解決したのか―それらを知ることができて、かつ義捐金になるのなら一石二鳥とばかりに即購入した。
・「玉川徹のちょっと待った!総研
■オーストラリアの国の改革-----------------------------------------
ところで、昨日と今日の2日間は、オーストラリアの行政改革を取り上げていた。かつては、オーストラリアも日本と全く同じだった。
官僚は保守的で、かつ大臣よりも権力を持っていた。
当然省益優先で予算は膨らみ、国は借金を抱えて財政破綻に直面した。
おまけに、官僚と癒着した産業界は怠けて競争力を失い失業は7%。
頭でっかちで手足はなえ、足腰の立たない国がそこにあった。
にっちもさっちも行かなくなった国の舵取りは、労働党に任された。
疾風怒濤の中、船の船長(首相)となったのはボブ・ホーク(1983-1991)
副船長(経産相)は、ポール・キーティング(→次期首相となる1991-96)
志を同じくする者が2人揃うと強い。
しかも、トップとナンバー2(腹心は金を牛耳るところに置く)。
舵を間違えれば船は転覆する。
非常時にすべての情報を自分に集めろというバカはいない。
つまづいて転ぼうとしているときに脳は判断していない。
体のあちこちが自律的に判断して、体全体で危機回避している。
非常時は、集中処理ではなく自律分散処理だ。
非常時こそ、自分の体(国民)を信じることだ。
★まず、ボブ・ホークがやったこと-----------------------------------
それは、「不安」を「危機感」に変えることだった。
そのためには、事実を洗いざらい話すこと。
彼は、様々な分野の代表者を呼び経済サミットを開き、国の台所事情を公開した。同じテーブルでみんなが聞く。それが大事。これで各分野とも身勝手を言えなくなった。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ」
→省(官僚)を射んと欲すればまず管轄産業(各分野代表)を射よ。
★次の手―「歳出検討委員会」を設置した-----------------------------
ボブ&ポールが委員長、副委員長となり、他数名という少人数で予算を決定する権限を持った。
各省庁(官僚)は当初文句を言ったが、言っても無駄なことがわかると、ここが削減できると積極的に協力するようになった。
ここが事業仕分けとの大きな違いである。政治家が要不要を判断する事業仕分けは、膨大なエネルギーをかけながら抜け穴だらけだ。もぐら叩きに終わって本質的効果はない。
何が必要で何が不要なのかは、本当は各省庁が知っている。
だから、政治家は予算「枠」というがんとした「壁」になればよい。何を削るかの判断は、専門家に任せればよい。自らが決めたことだからこそ、官僚は動く。
★三の手―公務員を公募とした---------------------------------------
しかも、公募するのは下っ端ではなく「上級管理職」。
民間より10年は遅れているという官僚界に社会の風を吹き込むためだ。
当然、反発。特に60代以上は世界が変わることを望んではいなかった。
労働党の基盤たる労組も反対した。
が、労組の最大の問題は失業問題。
給与上昇を停止することにより雇用を守ることを条件に、経営者も労組も味方になった。
こうして、幹部公務員は新聞で公募されることとなり、民間からの転職を受け入れて、ものの見方が刷新されていった。
★四の手―ハローワークを民営化した---------------------------------
全国にあったハローワークの運営費が国の予算から削減された。
また、中央からの一元的な画一管理だったのが、ニーズを満たしてくれない紹介所は淘汰されていく。200あったハローワークは、ほぼ半減した。
一方で、地域密着、サービスのよいハローワークが残った。結果…
英会話、パソコンの講習も無料、仕事が決まるまで1対1で面倒を見てくれる。
■事実を明らかにせよ------------------------------------------------
ポール・キーティングが言った。
「事実を明らかにする一人がいればいい」
「事実を知れば、国民は協力するために我慢する」
「“問題がある”と言っていないで、“説明”せよ」
見事だと思う。
30年前の改革のおかげで、今のオーストラリアがある。
危機を回避したトップを見ていると、いずれもやることは共通している。
根っこにあるマインドが同じであれば、同じような行動をとるのだと思う。
私も情報開示と、改革組織の当事者に決めさせること、そのときに必ず自分たちのよいように方向性を捻じ曲げようとするから、がんとした「壁」になることをやった。人も組織も逃げ続ける。壁は必ず必要なのだ。
当時、「あいつだけは絶対につぶす」―裏で牛耳っていた天皇がそう言っていた、と耳に入ってきたこともあった(←この話を書くと分量が倍になるので「あきらめの壁をぶち破った人々」には書いていませんが)
改革に既得権益を失う人間が出てくるのは当たり前だ。憎まれもし恨まれもする。また、一般の人々は不満を持ってブツブツ文句は言うけれど、「変わること」自体を望んではいない。何事も、始めるときは四面楚歌なのだ。
鍵は、担当者がどれほど危機を感じているかに尽きる。
事実を知り、危機を実感すれば、「私心」など持つ暇はない。
コメンテーターの皆さんが言っていたこと。
結局、「人」に尽きる―ということ。
それも、「視野の広い人間」。
昨日書いたように、自分をぶち壊さなければ視野は広がらない。
それがなかなかできないから、外部からぶち壊されることになる。
自然災害のような巨大ハンマーで、否も応なくぶち壊される。
これでなお、危機感という形で視野が広がらず、自分の殻を守ろうとすれば、第二のハンマーが来るかもしれない。
■本当の政治主導とは何か--------------------------------------------
本当の政治主導とは何かをオーストラリアは見せてくれた。
それは、政治家が何もかも引き受けることではない。できもしないのに、そんなことお願いしてはいない。
そうではなく、隠されていたものをさらけ出して国民にお願いすること。それが、本当の政治主導である。
今は一人政治家がすべてをさらけ出せと言われていない。
すべての人間が自分の中の闇と向き合うことを迫られている時期だ。
だから、臆することはない。
すべてを白日の下にさらせ。
また、田中休愚や上杉鷹山のような人間が必ずいるはずだ。
・田中休愚と富士山大噴火
・連鎖を絶つチーム
田中休愚を引っ張ってきた徳川吉宗
上杉鷹山を引っ張ってきた上杉重定
トップは自らがアンシャンレジームの「壁」となって、有能な人間に存分に力を発揮してもらう―それもまた、きわめて大切な役割である。
自らが事実を公表して国民にお願いするオーストラリア方式でもよい。
自らは旧体制の壁となって改革者にお願いする江戸方式でもよい。
プライドも私心も捨てて、このいずれかの道を内閣がとっていただくことを切に祈る。