未完でいい
絵画は肉体的行為です。
キャンバスの前に立って絵筆を動かすと、
脳ではなく肉体が発する言葉がぼくを支配し始めます。
その言葉は本能とか魂と呼ぶものに近いように思います。
頭のなかでざわめく言葉にとらわれている間は、
真の孤独になれません。
その言葉が一切消えたとき、
無心になり、
個人から個という普遍的な領域にたどり着く準備ができます。
絵の完成を求める限り、言葉はなかなか消えてくれません。
だけどあるとき、
人間は未完で生まれ未完で死んでいくのだから、
絵も未完で終わっていいのではないかと気づきました。
すると、強迫観念から解放され、
絵を描くよろこびと出会うことができました。
グラフィックデザインでは、常に言葉と対峙しました。
その体験は絵画制作の試金石で、
グラフィックから絵画に至る必然性はあったと理解しています。
【朝日賞5氏のスピーチより】
【お知らせ】
本日から2/14まで不在となりますので、よろしくお願いいたします。