「壺割」の害(1)-会社編
「お前は余計なことに首をつっこむな」「分をわきまえろ」「与えられたことだけをやれ」
無形にと言うのは、例えば口先では意見を言えと言っていても態度が聞く耳を持たないと言っている場合などだ。この態度で示している内容を「禁止令」という。
このような「禁止令」を浴びせ続けられると、人はだんだんと自分の持ち場の中で小さくなっていく。
これを「蛸壺に入る」と言う。
つまり、部下は言われた(禁止令の)通りに育つ。
【「あきらめの壁をぶち破った人々」第8章参照】
組織改革を行う際は、この蛸壺に入った社員全員が巨大な抵抗勢力となる。
そこでコンサルタントを呼び、ドラスティックな組織再編案を作り、無理矢理に人を動かす。
これをコンサル用語で「壺割(つぼわり)」という。
蛸壺を割ることによって、そこから引きずり出すわけだ。
つまり、会社は自分でそのように社員を育てておいて、どうしようもならなくなると外部(コンサル)に依頼して、壺割をすることにより何とか状況を変えようと試みる。場合によっては丸投げすることもある。極めて自分の責任に無自覚なやり方だ。
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しかし、このやり方では成功しない。形を変えても経営マインドが変わらないので、「禁止令」が出続けるからだ。
なぜマインドが変わらないか。自分のやったことに無自覚だからである。自覚していないから、やり方が変わるはずがない。
「気がついたことがあればどんどん言いなさい」
「失敗したら私が責任をとる。思いっきりやってみなさい」
という風土に変わらなければ、根本的な解決にはならないのである。
それは、簡単に言えば、人を使う風土から人を育てる風土に変えると言うことである。
壺割の弊害は実に大きい。
1,やった気になる(経営側は責任を果たした気になる)免罪符
2,悪しき状態を延命させる
3,さらに現場は混乱する
4,無力感・絶望感が広まる
5,経営に対する不信感が決定的になる
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私は、「蛸壺」に入っている一人一人に呼びかけた。
すると、最初は8本の内、1本の先っちょだけ足をのぞかせて様子を見ていた蛸だったが、そのうち半身を乗り出し、やがて数名が飛び出してきた。その数名が壺から飛び出して生き生きしているのを見て、他の壺からも三々五々出てきた。
私の感覚で言えば、2割から2割5分の蛸が出始めると、残る蛸もわらわらと出てき始める。
出てくるということは、自ら行動を起こしたということ。
自ら行動を起こす。これ即ち意識改革である。
意識が変われば行動が伴う。変わって以降の変革のスピードは速い。
組織改革の真の目的は、意識が変わって生き生きと行動するようになることである。
そのためには、一人一人が自ら蛸壺から出てくるように、外の環境を変えなければいけない。それは難しいことではない。
外の環境が減点主義ですさんでいるから出てこようとしない。
先ずはたった一人でよい。
私は暖かい環境になった。
すると、外は暖かそうだと感じた蛸が出てきた。
すると、それを見ていた他の蛸も、釣られて出てきた。
本当は、誰だって外に出たいのだ。
つまり、私は吹きすさぶ「北風」ではなく、暖かい「太陽」の役割を果たしたのである。
暖かくなった蛸たちは、自ら蛸壺を脱ぎ捨てたのだ。
だから、プロジェクトは成功したのである。
<続く>