「土浦両親姉惨殺事件」―7,殺害方法に現れた「思い」
★17,命をかけて親に存在を認めさせたい子ども------------------------
母親を殺すとき、勝は、『母親の左手をひっぱり、包丁を見せたあと頸部と頭部を刺して殺害』しました。このことを、『いきなり刺すのは母に申し訳ない』からそうしたのだと彼は言っています。
なぜ、「申し訳ない」と思ったのか?
それは、父が死ぬまで全うしようとしていた自分の(生き人形という)役割を全うできなかったので、「人生脚本を生きている勝」が「脳内母親」に対して申し訳ないと思ったのではないでしょうか。
では、彼の深層心理はどうだったのか、これまでの体験から述べてみます。
澄子は「苦労を我慢して耐える」脚本を生きていた人でした。つまり、澄子は日々脳内母親だけを見て生きているわけで、目の前の家族はシナリオを遂行するための道具でしかありません。
つまり、勝は澄子から心配されかまわれているように見えて、彼の実像を澄子は全く知りません(知る必要がありません)。勝もそのことは心の奥で感じているはずです。
親から心を無視されて透明人間になっている子どもは、目の前で何をしていても見てもらえないわけですから空しくなります。その虚無から死を選ぶときに、自分の存在を無視されたまま死ぬわけにはいかないのです。
そこで、ニュース沙汰になることで存在を認められようとするか、あるいは、親を殺すときに「あなたを殺すのはあなたの子どもである、この自分だ」ということを親の目に焼き付けて殺したいと思ったりします。いずれにせよ、命をかけてでも「親」に認められたいのです。
勝は、母親に包丁を見せました。
その時彼は、母親の目を見ていたでしょう。
母親はどのような目をしたでしょうか・・・
もしかすると、その時でさえも、「苦労を我慢して耐える」人生脚本である母親は、その状況を脳内親に見せ続けていたかも知れません。
★18,爆発した「憎しみ」------------------------------------------
姉に対しては、その身体を百ヶ所以上も刺しました。
憎しみがこもっており、爆発しています。勝のインナーチャイルドは、姉が“母親の手先”であることを知っていたはずです。つまり、勝が刺したのは“母親の手足”としての姉であり、だから“ボディ”を百ヶ所以上も刺したのでしょう。
「真綿の支配」をしていた母親に対しては、その頭を包丁が抜けなくなったくらいに力一杯刺し、姉に対してはそのボディを百ヶ所以上も刺した―ボスの「頭」と「体」を殺したのです。
彼のインナーチャイルドは、自分たちを踊らせた母親を、これほど憎んでいたのです。
★19,母親のための人生脚本を生き通した子ども----------------------
母と姉を殺害したとき、勝は『疲れて自首を考え』ました。
それは、潜在意識レベルでの本当の目的は達したからでしょう。
けれどそこで終わらせてしまえば、母親が本当の支配者であったことに顕在意識がいつか気づく可能性があります。彼の脚本は、それだけは避けなければなりません。
母親が死んでも、脳内母親に忠誠を尽くす人生脚本は生きていますから、脚本に操られた思考が強引に勝をレールに戻しました。それが、『父親こそ自分を苦しめている張本人であり、このまま終わらせる事はできない』と『考え直した』ことです。そして、父親を殺害しました。
人生脚本とは、これほどに強力なのです。
人は、ごく大雑把に言えば、「脳内親」と「脚本ちゃん」「不安ちゃん」「小さいちゃん」の3人のチャイルドに動かされています。不安ちゃん(存在不安)を見たくない人間は、無意識のうちに小さいちゃん(インナーチャイルド)もろとも、感情を封印して生きています。
感情は封印されてはいますが、監獄となった「心のコップ」から出るチャンスをうかがっていますから、“本人”はそのチャンスを作らせないために、不安から逃げるための「時間の構造化」をして生きるわけです。
一方で、封じ込めた感情を出すために「代理親」を見つけ、その相手にゲームを仕掛けて代償行為(親に吐き出したい感情を目の前の相手に言う)をし続けます。
こうして、すべての人が時間の構造化や代償行為をして生きているわけですが、その組み合わせとして脚本ちゃんが相互に相手を選んでいるわけです。その相手は本来学びの相手なのですが、脚本ちゃんは脳内親しか見ていませんから、相手を道具として使うだけで学ぶことはありません。
自分が自分という船の船長であるという自覚を持ち、この4者と正面から立ち向かったとき、この4者の強者(つわもの)を自分の意志で活用できる(というより4者が協力するので強力なエネルギーを得る)のですが、船長不在の場合は、代理船長である脚本ちゃんが頑張り続けるわけです。
船長がこの脚本に気づき、これまでの荒海を脚本ちゃんが乗り切ってきたことをきちんと受け止めない限り、脚本ちゃんは船長を認めません。脚本ちゃんも、自分が“透明”で自分に認められないままに役割を終えるわけにはいかないのです。
自分は親に無視されて透明になっていると思っていますが、
4者の強者達も自分に無私されて透明になっているのです。
自分が自分を透明にしているのです。
『食って寝て排出するだけの9年間だった』と彼は言っていますが、実は母親の受け皿となり続けた28年間でした。その脚本に勝が疲れ果てて人生を終わらせるために、その脚本の元となる母親を殺しました。
この時、「心のコップ」に溜まっていた感情達が爆発しましたが、それは受け止めたことにはなりません。そして、爆発の直後にピタッと蓋をして元のレールに戻したのは、「脳内親+脚本ちゃん」連合なのです。こうして、勝は最後の最後まで人生脚本を生き通しました。
★20,脳内親を殺したインナーチャイルド(IC)--------------------
彼は母親は刺し、姉は刺すのと“破壊”と二つ、父親は“破壊”しました。この殺し方にも、彼のインナーチャイルドがこの家の支配構造―母親が大ボスで、姉は母の一部であり手足、父親は母親の操り人形―を正確に捉えていたことが表れているように思います。
また、3人とも頭を刺されたり、割られたりしています。
私のカウンセリング体験でも、首から上と首から下で分かれている人が多いことを実感しています。思考優位の現代では、首から上がIP領域、首から下がIC領域で人間が分断されています。
話す言葉は、首から上の思考(自己洗脳)の言葉ばかり。思考に支配されて心と体の声を聞いていません。首から下のリアルな感情や感覚の言葉を喉から出すことはありません。
仕事の話は立て板に水のごとく話すけれど気持ちの話になるとピタッと口を閉ざす人、考えは際限なく述べるけれど気持ちを言おうとすると喉が閉まる人、気持ちを言った瞬間にそれを曖昧化したり脳の言葉を怒濤のようにかぶせる人などのいろいろなパターンで、気持ちは首という関所で堰き止められ、体という監獄の中に閉じ込められています。
不思議なことに、人間の赤ちゃんは本当の敵がどこにいるのかを知っているように思います。あるIPの強いお母さんの子ども(2歳)は、お母さんの頭をやたらと叩くのです。それも強い力で。
もう一つ、その子が目の敵にしているのが黒く大きなテレビでした。そのテレビもまたバンバン叩くのです。容赦なく。
そして、そのお母さんがICとつながり始めたときに、その子は叩くのをやめ穏やかになっていきました。その変化を見て、つくづく思いました。人間は本来こういうセンサーを持っているんだろうなぁと。
(犬や猫なんかもね)
恐らく勝のインナーチャイルドも、本当の敵は、虚構を再生産し続ける脳みそであることを感じていたのかもしれません。だから、全員頭を破壊したのではないかと思うのです。
【稲葉浩志 『透明人間』】
自分が自分を透明にしています。
首から下の「気持ち」を言葉にすることで、呪いは解け、
あなたは体を現します。