「三保の松原」世界文化遺産逆転登録の意義
2013/07/04(Thu) Category : 見方・考え方・価値観-パラダイム
あの夢を見た土曜日は寝坊して、「あまちゃん」を8時から見て、そのままNHKを見ていたら、近藤誠一文化庁長官の話がありました。近藤氏の話を聞くまで、私は三保の松原が世界文化遺産に「逆転登録」されたことの意義をわかっていませんでした。そして、その意義が分かるとともに、「これぞ外交!」と感動しましたので、記しておきます。
三保松原は次の2点から外されていました。
1.富士山から約45キロも離れていること
2.防波堤が美観を損ねていること
地元でも「距離を指摘されたら、どうしようもない」と諦めの雰囲気が漂っていたそうです。
けれど、38年間を外交官として過ごし、その内半分を外国で暮らし、外から日本を見る多くの機会を持った近藤氏の観点は違っていました。
日本人は「形」ではなく「物語」を遺産としていると言うこと。
距離(形)は関係ありません。富士山と三保松原の組み合わせが、物語(和歌、日本画、能などの芸術)を生んでいるのです。そこを理解してもらわなければ、三保松原の登録はありません。
そこで、外交手腕を発揮します。
近藤氏は世界遺産委員会の委員国21か国を、反対、保留、賛成の3グループに分けます。そして、最も頑なな反対国2国(ドイツ、メキシコ)に、まずターゲットを絞ります。後は人的接触しかありません。理解を求めるためには誠意ある「触れ合い」しかないんです。
こうして近藤氏は、日本をのぞいた全20か国の関係者に接触しました。映像の中で、ドイツの委員から「日本人は尊敬されているから」という言葉があったのが嬉しかったですね。あの311の時の姿、サッカーのサポーターの姿などが見られているのでしょうね(政治家は情けないですが)。つまり、国民性も大きく後押ししたと言うことです。
かくして、採決の日―なんと、トップに発言したのがドイツ委員。これが賛成に回りました。続いたのがなんとメキシコ。ここも賛成に回りました。つまり、反対勢力の2強が賛成に回り、この流れが採決を決めたようです。
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このことは、とても深い意味を持っていると思います。
それは、日本的な考え方を世界が認めたということ。
漫画に象徴される豊かな文化を育んだ日本人の感性や物事のとらえ方が、いよいよ世界的権威の分野に浸透していく一歩を踏み出したということです。
西洋合理主義では掬えなかった三保の松原を掬った。
それはとりもなおさず、行き詰まった西洋合理文明では救えない「文化」を救うことにつながっていくのではないでしょうか。
日本から世界を変えていく―政治レベルでの、その具体的足取りの一つを垣間見た思いでした。
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こんな見識を持った外交官がいたのか!と私は驚き、「文化庁」のサイトに飛びました。すると、近藤誠一氏の就任挨拶が素晴らしかった。
『日本には,世界に冠たる洗練された文化・芸術や,優れた先端技術,勤勉さや優しさ,自然を慈しむ伝統的価値観が維持され,更なる発展を遂げています。その証拠に,文化・芸術・スポーツ・科学の分野での,日本人個人の世界的活躍はかつてないほどです。それにもかかわらず,それが国の力となり,国民一人一人の自信と力の源になり切っていないのは,こうした個人の能力や才能,要素技術を集積して社会の力としていくシステムが欠けているからではないでしょうか』
ではどうすればいいのか?
『政府が前面に出て個々の才能や技術をまとめるべきなのでしょうか。そうではないと思います。今日の民主的政府には,メディチ家やハプスブルグ家と違って,文化・芸術の内容を一元的に評価し,まとめていく能力も財力もありません』―明快!
そうではなく、
『各世代,各地域がもっている潜在的な文化の力をフルに引き出すような「仕組み」をつくることです。それは法律,規則,社会慣行,教育(学校のみならず,家庭や職場)などを総動員して初めて実現します。その鍵となるのが,国や地方と国民との対話であり,国民同士の対話です。今や政府が全てをやる時代ではなく,個人がネットワークでつながるシステムの時代です。政府はそのネットワークのハブたるべきなのです。』
同時に必要なのが世界との交流。
『日本の文化は既に成熟し,才能ある外国人を懐に呼び込むことで消滅するのではなく,むしろより力強く発展し,外国人アーチストに良い刺激を与えるに十分魅力あるものです。文化の発信とは,日本人アーチストや作品を外に出すことだけではありません。世界のアーチストや作品を日本に呼び込むことで,国民の多くが刺激を受け,また日本の風土にある伝統的価値観とその現代的表現によって彼らにインスピレーションを与えることこそが,真の「発信」だとは思っています。』
肯きながら読みました。
『文化もまさに誰もが知っており,意見をお持ちだが,なかなか包括的な議論やコンセンサス形成ができないテーマです。今の日本に一番必要なことの一つは,国民の皆さん一人一人が「文化とは何か」,「その人生における意味は何か」を考え,それをこれからの国づくりの過程に反映させていくことです』
『私としては,このポストに就いた機会に,国民の皆さんがこうした文化の問題を正面から考え,議論し,行動し,その結果を共有していくことで,それぞれの生活の中で文化を正しく位置づけていかれることを促進する,触媒のような役割を果たせればと思っています』
素晴らしい触媒が、ここにもいらっしゃいましたね。
是非一度、文化庁のサイトに訪れていただき、上記全文をお読み下さい。
三保松原は次の2点から外されていました。
1.富士山から約45キロも離れていること
2.防波堤が美観を損ねていること
地元でも「距離を指摘されたら、どうしようもない」と諦めの雰囲気が漂っていたそうです。
けれど、38年間を外交官として過ごし、その内半分を外国で暮らし、外から日本を見る多くの機会を持った近藤氏の観点は違っていました。
日本人は「形」ではなく「物語」を遺産としていると言うこと。
距離(形)は関係ありません。富士山と三保松原の組み合わせが、物語(和歌、日本画、能などの芸術)を生んでいるのです。そこを理解してもらわなければ、三保松原の登録はありません。
そこで、外交手腕を発揮します。
近藤氏は世界遺産委員会の委員国21か国を、反対、保留、賛成の3グループに分けます。そして、最も頑なな反対国2国(ドイツ、メキシコ)に、まずターゲットを絞ります。後は人的接触しかありません。理解を求めるためには誠意ある「触れ合い」しかないんです。
こうして近藤氏は、日本をのぞいた全20か国の関係者に接触しました。映像の中で、ドイツの委員から「日本人は尊敬されているから」という言葉があったのが嬉しかったですね。あの311の時の姿、サッカーのサポーターの姿などが見られているのでしょうね(政治家は情けないですが)。つまり、国民性も大きく後押ししたと言うことです。
かくして、採決の日―なんと、トップに発言したのがドイツ委員。これが賛成に回りました。続いたのがなんとメキシコ。ここも賛成に回りました。つまり、反対勢力の2強が賛成に回り、この流れが採決を決めたようです。
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このことは、とても深い意味を持っていると思います。
それは、日本的な考え方を世界が認めたということ。
漫画に象徴される豊かな文化を育んだ日本人の感性や物事のとらえ方が、いよいよ世界的権威の分野に浸透していく一歩を踏み出したということです。
西洋合理主義では掬えなかった三保の松原を掬った。
それはとりもなおさず、行き詰まった西洋合理文明では救えない「文化」を救うことにつながっていくのではないでしょうか。
日本から世界を変えていく―政治レベルでの、その具体的足取りの一つを垣間見た思いでした。
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こんな見識を持った外交官がいたのか!と私は驚き、「文化庁」のサイトに飛びました。すると、近藤誠一氏の就任挨拶が素晴らしかった。
『日本には,世界に冠たる洗練された文化・芸術や,優れた先端技術,勤勉さや優しさ,自然を慈しむ伝統的価値観が維持され,更なる発展を遂げています。その証拠に,文化・芸術・スポーツ・科学の分野での,日本人個人の世界的活躍はかつてないほどです。それにもかかわらず,それが国の力となり,国民一人一人の自信と力の源になり切っていないのは,こうした個人の能力や才能,要素技術を集積して社会の力としていくシステムが欠けているからではないでしょうか』
ではどうすればいいのか?
『政府が前面に出て個々の才能や技術をまとめるべきなのでしょうか。そうではないと思います。今日の民主的政府には,メディチ家やハプスブルグ家と違って,文化・芸術の内容を一元的に評価し,まとめていく能力も財力もありません』―明快!
そうではなく、
『各世代,各地域がもっている潜在的な文化の力をフルに引き出すような「仕組み」をつくることです。それは法律,規則,社会慣行,教育(学校のみならず,家庭や職場)などを総動員して初めて実現します。その鍵となるのが,国や地方と国民との対話であり,国民同士の対話です。今や政府が全てをやる時代ではなく,個人がネットワークでつながるシステムの時代です。政府はそのネットワークのハブたるべきなのです。』
同時に必要なのが世界との交流。
『日本の文化は既に成熟し,才能ある外国人を懐に呼び込むことで消滅するのではなく,むしろより力強く発展し,外国人アーチストに良い刺激を与えるに十分魅力あるものです。文化の発信とは,日本人アーチストや作品を外に出すことだけではありません。世界のアーチストや作品を日本に呼び込むことで,国民の多くが刺激を受け,また日本の風土にある伝統的価値観とその現代的表現によって彼らにインスピレーションを与えることこそが,真の「発信」だとは思っています。』
肯きながら読みました。
『文化もまさに誰もが知っており,意見をお持ちだが,なかなか包括的な議論やコンセンサス形成ができないテーマです。今の日本に一番必要なことの一つは,国民の皆さん一人一人が「文化とは何か」,「その人生における意味は何か」を考え,それをこれからの国づくりの過程に反映させていくことです』
『私としては,このポストに就いた機会に,国民の皆さんがこうした文化の問題を正面から考え,議論し,行動し,その結果を共有していくことで,それぞれの生活の中で文化を正しく位置づけていかれることを促進する,触媒のような役割を果たせればと思っています』
素晴らしい触媒が、ここにもいらっしゃいましたね。
是非一度、文化庁のサイトに訪れていただき、上記全文をお読み下さい。