妻の自殺を助けた夫~逃げ場なき化学物質過敏症
妻が団地の踊り場から飛び降り自殺。その妻を踊り場までおんぶして運んだのは夫だった。
教員の夫は、「今まで出会った中で最高の先生」と生徒が嘘偽りなく話すくらいに慕われた先生。
その夫が何故、自殺幇助を?…TVのコメンテーターは、訳が分からない顔をしていた。
しかし、僕はわかる気がする。
妻はシックハウス症候群―化学物質過敏症だった。
環境のいいところを選んで何度も転居を繰り返し、ついに勤務先の学校から2時間半もかかる所に居を構える。
が、結局逃れられない…
行き場がなくなり疲れ果てた妻は死なせてくれるよう懇願する。
夫は何とか思いとどまらせようと…。
間近に妻の苦しみを見つめ続けてきた夫は、一体どういう思いで妻をおぶっただろう―。
例えば、魚を入れた器を火にかけるとしよう。
魚は冷たい水を求めて、上に逃げる。
対流してお湯が上に上がってくる。
今度は中層に逃げる。
暑苦しく息苦しくなってくる中、あっちへ逃げ、こっちへ逃げ…。
結局、逃げ場がないまま、死を迎えることになる。
人間は、魚と違って判断することが出来る。
逃げ場がないことを悟った時、
そして生きている限り苦しむ事を知った時、
あなたならどうするだろうか。
魚にとっての水が、人にとっての空気だ。
既に、都会の人間は薄いガス室の中で常時暮らしている。
その上、化学物質(建材)で密閉された空間の中で過ごしている。
微細な刺激(ストレス)でも、受け続けるとストレス耐性は弱まり、かつ過敏に反応(アレルギー反応)するようになる。一度過敏に反応するようになると、さらに微弱な刺激にも反応するようになる。
一度過敏症になってしまうと、化学物質だらけのガス室空間の中で行き場はなくなるだろう。
絶望的になる気が分かる気がする。
しかし、何とか生き延びてほしい。日本を捨ててでも。
化学物質のない地域と環境を求めて。
そして、日本は早く手を打たなければならない。
システムズアプローチの観点で言えば、「化学物質過敏症の方はIP(インデックスパースン)」だ。
IP(インデックスパースン)とは、「指標となる人」。
「炭坑のカナリア」のような役割をするような人のことである。
坑道のカナリアは有毒ガスに触れるとパタッと倒れ、身をもって人に危険を知らせてくれる。人はその様子を見て行動を変える(避難する)。
IPの方は、その人が属するシステム(環境、仕組、制度、ルールなど)が上げている悲鳴の代弁者だ。システムを変えなければ、次々に違うIP(犠牲者)が現れ続ける。
身をもって、今までの行動を変えよと警告を発しているのだ。
何人犠牲者を出せば、「個人のせい」や「個人の問題」にしなくなるのだ?
「因果関係が分からない」と、いつまで逃げ回るつもりなのか?
【追記参考】
・温故知新ー震災後の21世紀の町づくり、国づくり
・地球が奏でる美しき交響曲を聴きたい