週刊東洋経済「貧困の罠」特集に見る日本-(1)労働格差拡大
家族の問題について、いつかは特集を組みたいと問題意識を持っていらっしゃった。このような経済誌が「家族」について特集を組む意向があるなんて、サラリーマンの人生上の重要テーマとして、「家族」が登場してきたことの証拠だろう。
とてもいいことだと思う。
何しろ仕事に追われている父親は気づかない。気づいたときには家族は崩壊している。崩壊した後で、「俺は何のために働いてきたのだろう」と働く意味や働き方を問い直しても意味がない。だから、
“今”気づいてほしい。
会社は所詮、あなたの“居場所”にはならない。
その編集者の方が、好評で完売したという特集を2冊送ってくださった。テーマは、「貧困」と「公共サービス」。
選挙直前。頭を整理するにもちょうどよい。
週刊東洋経済渾身のリポートをピックアップしてみたい。
1回目は労働格差が拡大している状況について、2回目は弱者が切り捨てられている状況について。2回に分けて記事からの抜粋をメモ的に紹介したい。
今回取り上げるのは、その名も「貧困の罠」。

『統計を見ても日本は屈指の「貧困大国」だ。1000万人ともそれ以上とも言われる貧困層はどのように生まれたのか』-『あなたは無縁だといえますか…』
■営業利益2兆円企業を支える「賃金格差」
1,トヨタの4次請け層の年収は178万円
トヨタは年2回各パーツの「新単価」を通知。毎回1~1.5%の値下げを強制されるため、従業員を削減し、正社員から外国人派遣に変え、一方で、部品の運送は1時間に1回のペースに倍増。
トヨタ社員の03年の平均年収は822万円。
300~500人の下請けで約600万円。
100~200人の下請けで約500万円。
50~100人の下請けで約400万円。
10~50人の下請けで約350万円。
10人以下では約200~300万円。
06年9月豊田市の定例市議会で「市内中小・零細の7割は赤字」。
『トヨタ系列部品メーカー経営者は吐き捨てるように言う。「ゲンテイ(原価低減)と言うが、結局トヨタは工場の無駄を塀の内から外に出しただけ。コスト努力を引き受けているのは下請けだ」』
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■自治体予算切り詰めで「最低賃金割れ」労働多発
2,時給467円で働く50歳警備員
大手ビルメンテナンス企業から昼間は駐車場の警備員、夜は防災センターで24時間シフトで働く。仮眠3時間を差し引いて時間割りすると時給467円。24時間勤務のために月10日ほどしか働けないので、月給10万円。
市のゴミ処理場の仕事でも時給700円。1日8時間、月20日フルに働いても月11万円。
自治体からの委託業務に大きく依存してきたビルメン業界は、「安ければ安いほどいい」という自治体の「競争入札制度」でコスト割れを起こし、それが人件費切り詰めと労働強化につながっている。
ふじみ野市市営プールの委託管理費は、5年間で4割以上の予算が削減された。その結果、女児の死亡事故が起こった。
『自治体は最低限、そこで働く労働者の安心と安定を確保し、自信・誇りを持って働くことのできる職場を保障すべきだろう』
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■「もうお手上げだ」リンゴ農家からのSOS
3,時給534円のリンゴ農家
90年代から本格化した農産物の輸入自由化に伴い中国産の安いリンゴ果汁が出回った。今、国内総生産量の5割を超えるリンゴ産地のメッカ青森県は、耕作放棄地や売地となっているリンゴ畑が急増。
青森県の02年の自殺率(36.7%)は、秋田県(42.1%)に次ぐワースト2。
ハローワーク五所川原では、「正社員でも月収は税込みで13万円ほど。正社員での求人自体ほとんどない」
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■母子家庭を見舞う「福祉改革」
4,ワーキングプアの母子家庭
正社員時代は残業が40時間を超え、保育園への子どもの送り迎えは実家の両親に任せきり。
「お風呂に入れるのが深夜12時を回ることもあり、子どもたちの目にクマができていました。子どもが熱を出しても休むこともできませんでした」→そして、自身がうつ病になりかけて退職。
母子家庭であったため再就職できず、やっとパート保育士の職を見つけ子どもの送り迎えを自分の手で行えるようになったが、12万円の月給(時給750円のフルタイムパート)では生活費をまかなえず、児童扶養手当が命綱。
ところが、現政権は「母子家庭の自立を促進するため」、母子寡婦福祉法改正で児童扶養手当の大幅削減を打ち出した。受給期間が5年を超える場合、手当を最大で半減できる制度が08年からスタートする。
「NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ」のアンケートでは、制度がスタートすれば生活が立ちゆかなくなる人が1/4に達する。
母子家庭の7割は年収200万円未満。
<感想>
ここにすべてが現れている。
■まず…
工業を重視し、農業と福祉を切り捨てる政治の姿。
農業で食えないのだから、美しい国土を放棄してまで働かざるを得ない人々。
その働く場が大都市に集中しているため職場さえない地方の実態、そして棄てられていく地方。
逆に人が集まるために人の価値が下がり、使い捨てとなった労働市場。
査定する専門的な目を持たないがために闇雲なコストカットに走り、労働市場破壊の歯止めになるどころかイネイブラーとさえなっている役所。
…JR西の問題もそうだが、役所の目が地域や市民ではなく、国と企業を向いている。あなた方は、本来地域生活代表のはずだ。その方々が、地域も生活も見ていないのだから、そして国や企業ばかり見ているから、人が地域を棄て、地方が破綻するのも当たり前ではないか。
実際に住民の生活を見据えて発展しているコンパクトシティもあるのだ。
地方自治体よ、自分たちの使命と矜恃を取り戻せ。
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■次に…
目に見えるものをしかコストとしてみない現代文明の貧困。
田んぼは、保水能力、人の心に与える安心という景観の力、多世代が同じ体験を積むことによる世代間共感力、また上の世代に対する素直な尊敬と発達成長モデルの提供など、現代文明がコストをかけている「安全」と「安心」を無償で提供していたのだ。
それをコスト換算してみるといい。その失われたものを補うためにどれほどのコスト(金)がかかるのか。
トヨタはさらに、その目に見える部分のコストをさえ外に押しつけている。その上、労働コストを徹底して切り詰めている。このいびつさが、トヨタを世界一に押し上げようとしている。
それで、嬉しいだろうか?
このあまりにもバランスのとれないいびつな姿をさらに推進しようとしているのが、「美しい国」というスローガンの実態だ。美しいか?
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■最後に…
あなたは、何のために働いているのだろうか。
現代は、企業が収益を上げるために人が働かされている。しかし、それらの企業が作り出す過剰なモノの大半はいらないモノばかりだ。
なのに正社員はワークライフバランスまで崩されて金は得ても家庭は崩壊し、非正社員は生存権さえ危ない。
モノはいいから、身近に「開発」されていない自然があって、助け合える地域があるほうが、生きていて楽しいのじゃないかな。
【参考】
●棄民(1)-教育・医療・福祉・農業現場の惨状
●国虚飾にまみれて山河荒ぶ
●強迫神経症的働きすぎ症候群
●「空の器」となった家庭
●崩壊する「系」(2)-系再生のために自分を大事にすることから始めよう