JR福知山線脱線事故の深層-第4部 「日勤教育」に見る洗脳の仕方 (6)イネイブラーとなった裁判所Part2
裁判長は日勤教育を「不愉快で精神的苦痛を伴うもので、2度と受けたくないと思う運転士も少なくなかったと認められる」と結論付けましたが、結局「3日間の日勤教育が原因で自殺することは予見不可能」として原告の請求を退けました(大阪地裁)。
その結果、JR西副社長の丸尾和明氏は「大阪高裁の判決で、日勤教育は有用と認められた」と主張しています。
http://www.kobe-np.co.jp/rensai/200704kigyou/03.html
この判決は、信楽高原鉄道事故の判決と同じく、JR西にとってはイネイブラーとなってしまったのです。この時、「日勤教育」の本質を裁判長が深く洞察していれば、福知山線の大事故は防げたかもしれません。
裁判長は、ロールプレイでもよいから自分が「日勤教育」を受けてみればよかったのです。自分の良心と対峙させられるわけです。運転士としての誇り、乗客への安全、働く意味、生き甲斐-それらすべてを放棄させられ、ロボットになれと迫られるわけです。それは、自分が人として生きることを放棄させられることに他なりません。
あなたは、自分を放棄できるでしょうか。
たった1日の労働教化所送りでも、将来にわたって人間不信、組織不信を植え込まれ、自分の良心と背骨をへし折られて生きていくことになるのです。
その後、あなたは生きていけるでしょうか?
さらに彼は、「1ヶ月は日勤してもらいます」と宣告されたのです。たった1日でも耐え難い心理攻撃。自分の精神的な背骨が今にもへし折られそうです。それが1ヶ月続くと知ったとき、もはや地獄そのものではないでしょうか。
これでも、予見できないでしょうか。
是非、悪名高き「監獄実験」の結果を、この社会に活用してほしいと思います。
「監獄実験」とは、スタンフォード大学のジンバルド教授が1971年に行った実験で、「es(エス)」という映画にまでなりました。
彼はボランティアで募った優良な学生を刑務所を模した施設に集め、看守役(11人)と受刑者役(10人)のグループに分け、刑務官には全権力を与え、囚人は完全に無力な状態に置き、権力格差をつくりました。
すると、本当に虐待や辱め、暴力が始まってしまったのです。囚人役のカウンセリングをしていた牧師が危険を察知し、家族達が弁護士を連れて中止を申し入れるまでの6日間、実験は継続されました。
そして、わずか6日間に負った深い心の傷を癒すために、実験終了から10年もの間、ジンバルドは被験者をカウンセリングし続けることになったのです。支配と服従がどのくらい深く人の心をえぐるのかがおわかりだと思います。
ジンバルドは、『普通の善良な米国人でも、環境やシステム次第で悪の執行者となりうる』と言っています。
日勤教育の現場は、
管理者側に絶対権力者という「立場」を、
教育される側に完全に無力な閉塞「環境」を与えます。
そう-「監獄実験」そのものの状況下に人を置くのです。
その結果どうなるか。スタンフォード大の「監獄実験」が示しているとおりです。
この日勤教育の仕組みそのものが、支配と服従の装置であり、そこに関わる人を変えていくことを、十分にご理解ください。ことは、教育の理念だの中身だののことではありません。監獄実験がすぐに閉鎖されたように、この仕組み自体があってはならないものなのです。
つくづく思うことは、裁判官は法で裁く前に人間の心理メカニズムを知ってほしいということです。人は心で動いています。
否、すべての職業の方、すべての方が、人の心について学んでほしいと思います。
だって、この世は「形」ではなく「心」で動いているのですから。
<追記>
労災訴訟:「日勤教育で自殺」運転士の父、不認定取り消し求め提訴--地裁尼崎支部(20070719 毎日)
*服部さんの自殺を巡っては、父栄さんがJR西などに対して損害賠償請求訴訟を起こしたが、今年3月に最高裁で敗訴が確定。18日、尼崎労働基準監督署を相手取り、労災不支給処分の取り消しを求める訴訟を神戸地裁尼崎支部に起こした。
(参考)
■監獄実験とゼロトレランス
■監獄実験とモラハラの状況
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