「キレる大人」の心理(1)-定年退職後、突然キレだした理由
■定年退職後、突然キレだしたKさんの悩み----------------------
「勤め人の時はそうじゃなかったのに…、退職して自由で不満もないし…どうしてキレるかわからない」と、自分でもよく理由がわからないK氏。聞けば、瞬間湯沸かし器的に怒っている。
奥さんは、仕事一筋で趣味もなく友達もいないKさんの、退職後の日常がストレスになっているのではないかと考えている。Kさんの日常は、日中誰とも話をせず、ただ喫茶店に行って新聞をくまなく読むのみ。
そんなKさんの言葉で印象に残ったのは、次の3つ。
1,「これまで全力で笑ったことも、泣いたことも、怒ったこともない」
2,「これでひいたらおしまい。命をかける」
3,「正義で言ってるつもり」
1の言葉は、感情を抑圧して生きてきたことを示している。
子供の時こそ感情を思いっきり表現し、大人になっても活き活きと仕事が出来ることが「幸せ」なのだろうが、現代人でそのような環境にある人は一体どのくらいいるだろう。
自分の胸に手を当てて、「思いっきり笑ったこと」「思いっきり泣いたこと」「思いっきり怒ったこと」-それぞれを思い浮かべてみるとよい。それぞれ幾つかある人は幸い。ない人が圧倒的に多くなっているのではないだろうか。
子供が大声出して遊べる自然環境はなくなったし、叫ぶような遊びもしなくなったし、「大人しい」ことが是とされるようになったし…我が子達も、「腹の底から声を出す」という経験はないのじゃないだろうか…。
人間、自分の限界を知りたいもの。知って初めて次に行ける。それがわからないからもどかしく、どこかに不全感があり、そして…次に行くことが出来ない。
感情=自分自身であるのに、その感情を全力で表現していないということは、自分を全力で生きていないと言うことに等しい。自分の人生なのに、自分を生きていないのである。
当然、その間静かに不満が積もっていく。宮仕えの会社の仕事は作業をこなすように黙々と…。あれこれ言われてただ我慢? 「何様のつもりじゃ」と言うKさんの怒りの言葉は、宮仕えの時に言いたかった言葉をようやく「今」吐き出しているように思える。
・怒っているのに怒っていないという人
2の言葉は、ディスカウントされて生きてきたことを示している。
ディスカウントとは、「人の数に入れない」=人として見なさない、無視すること。
・人がディスカウントされる場が「崩壊基地」
そもそも、自分の気持ちに我慢をさせて他を優先して生きること自体が、自分の自分に対するディスカウントだ。例えば、自分のことを二の次にして人のことを優先させる性向は、幼い頃の親との関係の中から形成される。
一見ニコニコと従順で穏やかに見えるのだが、自分自身(感情)がないがしろにされているので「怒り」が静かに溜め込まれていく。怒りとは、人間の尊厳を傷つけたれたときに湧く感情なので、ディスカウントされた人、自分の気持ちを抑圧して生きている人は、自分でも気づかぬうちに怒りを溜め込んでいる。
またディスカウントとは、自分の価値を値引きして見られることだから心が傷ついている。その日常が続く間に心は傷つきまくって、もうこれ以上傷ついたら立ち直れない、自分がダメになってしまう…そういうギリギリのところで生きるようになる。
すると、もう髪の毛一筋ほどのニュアンスであっても、そこに自分がないがしろにされた、自分が卑下された、というニュアンスを感じたとき、もうこらえきれず大爆発を起こすのである。そこには、これ以上傷ついたら自分が自分でいられなくなってしまうと言う危機感がある。だから、「命をかける」のだ。
宮仕えでなくなった今、失うものは何もない。K氏は、そういう状況に置かれて初めて「我慢する」ことをやめたのだ。
・「ディスカウント」vs「傲慢」
そして…
3の言葉-見事に言ってくれましたという感じだ。
「正義」が怒り爆発のトリガー(引き金)である。
元々吐き出したい怒りが先にある。事が起こって怒るのではない。怒りが、出るきっかけを常に探しているのだ。「袖すり合うも多生の縁」ならぬ「袖すり合うもキレるチャンス」なのだ。チャンスを逃さず吐き出したいのである。
それが証拠に、本当に「正義」ならば穏やかに言えばいい。真っ当なことであれば、穏やかに言っても十分に相手には通じる。「正しいことを言うときは穏やかに言いなさい」-昔の人はそう教えたものだ。
が、「正義」だと思った瞬間に「キレる」-何のことはない、それは怒りを吐き出す正当性を自分が得たと感じるから、ここぞとばかりに怒るのである。最近の大人げない「キレる大人」は、圧倒的にこのパターンが多いのではないかと思う。
・人はどのように怒りを吐き出そうとするか?
Kさん。
他人に代償行為として怒りを吐き出している間は、怒りの本体は出て行かない。怒りの根源は何か、時間を得た今こそ、自分と向き合うべきだ。ようやく自分自身と向き合うときがやってきたのである。向き合ってこなかったこと自体が怒りになっているのだから、もう自分からは逃れられない。
トラブルや事件になる前に、自分と向き合ってほしい。
・「キレる大人」の心理(2)-感情でものを言われるとキレる理由
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