道路問題は政治を国民の手に取り戻す象徴
■1,「日本列島改造論」に飛びついた官僚-------------------
話は70年代にさかのぼる。
戦後、池田-佐藤と高度成長を続けた日本。その2名の後を受けた田中角栄は、3番手の重責と高度成長再びの思いがあったことだろう。しかも、戦後新憲法下で行われた第1回総選挙で衆議院議員となった角栄には、自分こそが新生日本の代議士であるという気持ちもあったかもしれない。
そして、彼には武器があった。国土開発にまい進したキャリアだ。そのキャリアを活かして、新たな高度成長のシナリオを描き出した。今後バッシングが強まるであろう輸出に頼る成長ではなく、国土開発=公共事業に頼る成長をもくろんだのだ。題して「日本列島改造論」(S47-1972)。
彼は、「日本列島改造論」の枕で、都市と農村の過密過疎、表日本と裏日本の発展のアンバランスの是正を唱え、それが世間に受けた。
また、「所得倍増」に変わる新たなスローガン「列島改造」に官僚が飛びついた。なぜなら、角栄のビジョンは、これまでの仕組みを是とし、高度成長を地方に拡散させるという施策だったからだ(つまり、官僚の仕組みは温存される→本気で変えようとしたのは81-86の土光さん)。
■2,「日本列島改造論」の本質----------------------------
角栄が立脚する信念は、次の2つだった。
①「人間の1日の行動半径の拡大に比例して国民総生産と国民所得は増大する」
②「国民総生産と国民所得の増大は、一次産業人口比率の低下と二、三次産業人口比率の増大および都市化に比例する」
極めてシンプルなこのたった2つの信念を実現するため、彼がS43(1968-明治100年)に次の100年の繁栄をもたらすものとしてまとめた「都市政策大綱」は、次のことを目指していた。
①日本全体を一つの都市と考え、「1日交通圏、1日経済圏」とする
②高速道路のインターチェンジ毎に25万の工業都市を置く(工場分散=地方の二次産業化)
そして、そのビジョンを実現すべく、高層マンションの大量供給、新幹線、高速道路、地下鉄、本四架橋(原油と水を阪神工業地帯に供給するため)という計画が盛られた。つまり、列島改造論の冒頭で述べたこととは裏腹に、彼の施策はアンバランスの是正どころか、さらに一極集中(中央集権)を加速するものだった(←現在、まさしくそうなってますね!)。
■3,列島改造を嫌った国民-------------------------------
輸出主導の工業立国から公共事業主導の工業立国へと方針転換を告げた列島改造論は、法人の土地買い漁り、物価騰貴を発生させた。
その前年度、イタイイタイ病や水俣病が公害であることが認定されたばかりで、国民は開発の伴う公害(健康被害)を嫌った。結果、7月に庶民宰相ともてはやされた角栄は、わずか5ヶ月後の12月の衆院選で自民後退、翌年辞任に追い込まれた。国民は、便利さと引き換えに、これ以上列島が破壊されることを望まなかったのだと思う。
しかし、民衆が望まなくとも、明確な方針転換を示さない限り、一度打ち出されたポリシーに則って組織は機能し続ける。方向を変えるためには、政治家のリーダーシップが必要だった。
ところが、実に高度成長にも匹敵する14年という期間、舞台裏で影響力を行使する角栄と政治の表舞台との間の綱引きによる長期混迷の時代(「経済一流、政治二流」と言われた)に入る。
■4,道に迷い込んだ政治---------------------------------
1981-86 土光氏が臨調会長となり行革(仕組みの改革)に乗り出すが、敵は官僚だけではなく、これまでの仕組みを温存しようとする角栄との闘いがその本質だったと思う。
しかし、「今やらねば日本は自殺する」という不退転の決意で望んだ行革も打ち破れ、角栄も病に倒れ、“旧体制の温存vs行革”“表vs裏”の2つの対立がなくなった政界の緊張の堰を切ったように86年からバブルが始まった。
「慇懃無礼、意味不明」の竹下首相の下で新たな目標が示されるはずもなく、頭を切られてのたうつヘビのようにバブルは暴れた。高度成長で得られた国民の財産は、永田町というきわめて矮小化された限定的な世界で勢力争いの具に使われた挙句バブルに向かい、そして、バブルははじけ…結局、何も残らなかった無力感の中で、いわゆる「失われた10年」に突入していく。
■5,そして、現在----------------------------------------
次の2つは以前変わらず残っている。
①「国主導の工業立国」というポリシー
②「中央集権官僚国家」というシステム
政治が混乱を続けている30年もの間、各省庁は毎年同じように予算を上げ、折衝し、不要なハコモノを作り続けるということを機械的にやってきた。列島改造の理念は生きているから、見事に一日経済圏は達成され、全ては東京に集中している。そして、大阪の衰退に象徴されるように、「地方」の衰退に歯止めがかからない状況に至っている。
この現在の日本のいびつな姿が、「列島改造」の「結果」である。
惨憺たる結果が出ているにもかかわらず道路を造り続ける背景には、日本の新たな姿(ビジョン)を示し得ない政治と、既得権益を守ろうとする政治家、官僚の影がある。
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・公共事業費は欧米先進諸国の平均の約3倍
・人の住む土地1万平方km に対して使われる費用は約200倍
・社会保障費は約半分
・800兆円もの債務
これだけ、いびつな「数字」が現実にある前で、まだ道路を造るご託を並べる政治家がいるのか?!
今日のテレ朝の「スクランブル」でも、怒り心頭の無駄遣いが公表されていた。
確か60億円使ってほとんど使われていない都心の地下駐車場。さらに、天下り職員に多額の給与が払い続けられている。いずれも、病院や福祉を切り捨てた血税からだ。国民のためにではなく、天下り役人を養うために血税が使われているのである。
佐世保の高速道路は、たった1kmに200億円をかけている。道路税で米軍住宅を建設したためだそうだ。ネットカフェ難民や漂流少年少女、ワーキングプアを生み出しておいて、1630億はないだろう。何より、そもそも「その高速道路はいらないんじゃないか、今ある道路で十分」と地元住民が言っているのである。
「道路立派で、民衆痩せる」というアナウンサーのコメントが印象的だった。
今こそ、私たち一人一人が、日本がどのような国になってほしいのかを考えていかなければならない。道路問題は、政治を官僚支配から国民の手に取り戻す象徴となる問題だ。そのために働く政治家を応援するためには、声を明確に上げる必要がある。
「道路の前になすべき事がごまんとある!」
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【ご参考】
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